Yips
 イップス、ゴルフ用語でよく使う言葉。精神集中してプレーする際に緊張のため起こるふるえ、ゴルフのパットなどで手の動きが鈍るような症状が出る。

 まっすぐに後ろへ引いて、まっすぐにヒットする、目をつぶっていてもカップインするような短いストレートな距離(一メートル前後)が左右にぶれたり、ショートしたりする。目の前にカップが見えるからこそ腕が動かない。

 プロゴルファーにとって、イップスほど怖い病気はない。300ヤードのロングショットも90センチのパットも同じ一打だからだ。賞金稼ぎのプロたちにとって、パット・イズ・マネーという格言がある。いくらすばらしいショットをしたとしても、最後の詰めが甘ければ何の意味も持たないのである。

 で、ぼくのイップスは重症である。自滅という言葉が適切なほどで、相手が驚くほどに短いパットをなんべんも外してしまう。慎重にすればするほど右へ押し出したり、左へ引っ掛けたり、全然届かなかったりする。勝てるはずのゲームを落し、賭けに敗れ、ため息ばかりが出るのである。

 「夜遊びがすぎるんじゃないですか?」とキャディーさんに言われる。「へたくそになったなあ」とか「わざと外したのか」とか「頭が悪いんじゃねえか」と同伴競技者に笑われる。あげく最も自分がみじめになるのは同情されかけるときである。

 ついこのあいだまで、ぼくはアプローチとパターの名手とさえ呼ばれていた。飛距離が出ない分を補ってあまりあった。だから、握りには強かったし、マッチプレーでは実力以上のものを発揮していた。

 腕が動かない。脳の指令に反応してストロークできない。緊張しているつもりはない。が、まるでわざとカップを避けているかのようにまっすぐにヒットできない。繊細な部分で自分をコントロールできない。

 ぼくはイップスという言葉を避けている。乱視がきつくなったとごまかしている。ぼくがイップスである限り、同伴競技者は実のところ喜んでいる。引き分けたと思うホールが勝ちになり、負けたと思うホールが引き分けになるからだ。

 どこか体の調子が悪いんじゃないかと思ったりする。精神的な波動が好ましくない状態にあるのだろうかとまで考えたりする。近頃よくため息をつく。日々緊張している時間が多くなった。夜になるとどっと疲れが出る。

 そう考えると、このごろミスが多いのは日常イップス状態にあるんじゃないかと思えてくる。プロゴルファーのイップス治療法は一筋縄ではいかないらしい。レッスンプロに教わったり、ゴルファー仲間に助言を求めたり、パターを何度も代えたりしてもなかなかおさまらない。なかにはカウンセラーにかかるプレーヤーもいてけっこう深刻なようだ。

 イップスを自覚しだして三ヶ月あまり、全く光明を見出せそうにない。今日ばかりはゴルフすることが嫌になってきた。やめようとさえ思う。が、運動不足を補うためには、また友人とのつきあいを続けていくにはやめることは適わない。

 が、問題は日常のイップス依存症である。緊張することのほうがけっこう好きで、やたらそちらに夢中になりがちだ。ゴルフというスポーツもまた神経戦で、わが意を得たるスポーツだった。日常の絶え間ない緊張、それを取り除くように取り組むか、もしくはそれを乗り越えてしまうことができるか、ぼくの二者択一の事態のような気がする。

 で、あしたはコンタクトレンズが合っているかどうか、眼科へ検診に行くつもりでいる。プレー前の精神安定剤をくれるだろうか???