風の絵葉書  * 浅井慎平 (写真家) *
恋文や宛名は夏郡海の村

誰のこころにも海がある。
おだやかな日もあれば、嵐吹く夜もあるだろう。
ぼくはこころの海を旅しながら、誰もいない島にたどり着く。
昨日がそんな日だった。
ちょっと辛いことがあり、
考え込んでも解決できないことがわかっているのにでこころの旅をした。
自分で自分を落ち着かせるのだ。
うまくいくとは限らないけれどしかたがない。
他に方法がないのだ。
人の力の及ばない事柄をあきらめるのではなく軽ろやかに受けとめたい。
こころの海の旅はそんなぼくのわずかな智慧のひとつだ。
「あなたの海の色はどんな色ですか?」
なんてことを他人にたずねたことはないけれど、
「この人のこころの海は美しい」と気づくのはいいものだ。
恋をしているときにはそんな感情があるのだろう。
いまはすこし忘れかけているけれど。


こころのなかの海の写真をイメージして
彼の言葉をかみしめたい。
そんな気持ちになるときが
それぞれによくあろうことだから。