Mrs.Robinson
 映画「卒業」の挿入歌、ミセス・ロビンソンの検索より。

 ポール・サイモンが「映画「卒業」のために書いた作品で、サイモン&ガーファンクルのコンサートでは必ず第一曲目に歌われている。歯切れがよく力強いギターのイントロと、ベース、控えめなパーカッションでの伴奏は、サウンド的にはまだS&Gのアコースティックな面が残っている。

 詩の内容は、実際に映画を見ると、よく理解できる。全4コーラスのうち3コーラスの頭で歌われるおなじみのフレーズでは、
 
 And here's to youMrs.Robinson
 (ほら、ロビンソン夫人)
 Jesus loves more than you will know
 (神はあなたが思っている以上に、あなたに愛を捧げてくださっています)
 (Wo wo wo)
 God bless you please Mrs.Robinson
 (神のご加護がありますように、ロビンソン夫人)
 Heavens holds a place for those who pray
 (祈る者には、天国に居所をご用意下さるのですよ)
 (Hey hey hey hey hey hey)
 
 ロビンソン夫人の生き方に対して、僭越的に忠告する第三者の立場で歌っている。この部分に挟まって、僭越な忠告は、直接的な表現ではなく、次のような抽象的表現で行われている。
 
 We'd like to help you learn
 (あなたご自身が学ぶお手伝いをさせてください)
 To help yourself
 (ご自分を救うということを)
 Look around you. All you see
 (周囲を見渡してご覧なさい、みんな)
 Are Sympathetic eys
 (同情の眼差しで見ているではないですか)
 
 みんなも同情の目で見ている位どうしようもない状態なんだから、自分で自分を救うようにしなさいという提言。自分が知っている以上に他人は、自分を見ている、ということか。(実際はその逆かもしれないけれども)
 
  Hide it in a hiding place
 (そんなものは見えない場所に隠して置きなさい)
 Where no one ever goes
 (誰もいかないような場所に)
 Put it in your pantry with your cupcakes
 (食器室にカップケーキと一緒に置いておけばいい)
 
 it(それ)とは、ロビンソン夫人とベンジャミンの関係を表すのだが、ロビンソン夫人だけでなく、人間誰もが持つ神への懺悔に値する事すべてかもしれない。それにしても、カップケーキと一緒に(さりげなく)隠せという忠告もユーモラスで面白い。こういう部分を読むとポールの詩が成熟していることを感じさせる。
 
 詩の内容に合わせて、歌のメロディも若干変わるのも楽しい。上のカップケーキの部分は、まるで耳うちしてひそひそ話をしているかにも聞こえる。
 
 Lough about it
 (笑いなさい)
 Shout about it
 (叫びなさい)
 の箇所も、まさに「笑い飛ばしなさい」っていう雰囲気があって、とっても痛快でおかしい。
 
 最後の部分では、唐突に「ジョー・デイマージオ(伝説のメジャー・リーガー)は
どこへ行った」と歌われる。これは、書籍「ポール・サイモン」(音楽之友社刊)によると、「アメリカの失われた純粋さと現代の英雄を求める気持ちを歌って、雰囲気を盛り上げる」とある。
 
 なぜ、ロビンソン夫人の歌で、最後に英雄が登場するのか。暗にポールは、夫であるロビンソン氏を叱咤しているのかもしれない。夫として父親としてもっとしっかりとしろ!と。
 
 「ミセス・ロビンソン」で、サイモン&ガーファンクルは1968年のグラミー賞を二つ、「卒業」のサウンドトラックで映画作曲賞をも受賞した。