パンの夢
 毎週水曜日、ティータイムのころになると、アンパンマン移動販売車がやってくる。事務所の前に車を停めて、アンパンマンのテーマソングを高らかに鳴らす。新鮮焼きたて、とってもおいしい『パントリーのパンカーのお出ましですよ!』の合図である。すぐ近くにある、ヤクルト販売の託児所の子供たちが昼寝の真っ最中だというのに―。

 で、「やかましい!」とぼくが文句を言うと誰しもが思いきや、毎週こうやって来ているのだから、文句を言っているはずがない。むろん、アンパンマンのテーマソングなんて好きなわけがない。やかましいだけなんだが、微笑み浮かべて『こんにちは、パントリーです!』とこられると、『やあ、まいど!』とまでは言わないが、すでに受け入れる準備ができている。なかなかの美形なのだ。

 「今日は新製品の蒸しパンいかがですか? よもぎとさくらのセットです」

 「うん、じゃそれもらっとこう」

 他愛もないのはやっぱりおのこ、アホってこと。何が新鮮焼きたてだ。よく見ると、保存料、着色料込みの大阪発の仕入れ商品だった。

 アンパンマンの歌が走っていく。『アン、アン、アンパンマンみんなのために・・・・・、そうだ、忘れないでみんなのために、愛と勇気だけが必要さ♪』 

 なんべん聞いても覚わらないが、今日だけはこんなふうに聞こえてきた。敵はブッシュかフセインか、魑魅魍魎たる我利我利亡者か。平和を望む人々の、願い叶えるヒーローがいたならと。

 「なにが君の しあわせ なにをして よろこぶ わからないまま おわる そんなのは いやだ! 時は はやく すぎる 光る星は 消える だから 君は いくんだ ほほえんで そうだ うれしいんだ 生きる よろこび たとえ どんな敵が あいてでも ああ アンパンマン やさしい 君は いけ! みんなの夢 まもるため」