Memories
 人は誰でも絵を描いたことがあるように、たとえ人目に触れずとも一度は詩を書いたことがあると思う。とりわけ多感な青春時代、ふと手にした詩集をめくりながら、その魅力に惹きつけられ、一つの韻律の中に、自らの感性で自分の宇宙を表現してみたくなる・・・・・。それはとてもひとりよがりなものだったのだけれど。そんなはるかな記憶は、叙情につつまれた大正から昭和にかけての若き詩人たちの名詩に負うところが多かった。

 黄ばんでしまった数冊の文庫本、それは朔太郎と中也の詩集だった。「Memories」には、そんなぼくの名残のようなものを写している。ボードレールはこう語っている。「詩の目的は真理やモラルを歌うのではない。詩はただ詩のための表現である」