かあちゃん
 ビデオ録画しておいた「かあちゃん」を昨晩見た。原作 山本周五郎、監督 市川 崑 主演 岸 恵子である。江戸時代の貧しい市井で、つつましく、あたたかく、ほほえましく、誇らしく、人情あふれる映画である。単なるお涙頂戴の人情物ではない。舞台となっている江戸時代は、不景気という時期に人々があえいでいたという点で、現代と似通っている。この映画では、日本の庶民がこの時代にどのように温かい心を通い合わせていたか、ということが心に染み込んでくる。

 主演の岸 恵子はこう語っている。「現代社会では、人間と人間の心の交流がありません。しかし、舞台となる江戸時代は人情がたくさんあふれていました。“かあちゃん”という役を演じているうちに、『これが人間のあるべき本性なんだ』と思うようになりました。彼女はとても魅力的な女性です。“かあちゃん”のような人が増えたら、日本は温かい国になるのではないでしょうか」

 僕には「かあちゃん」のような人がたくさん増えるとは思えないが、岸さんが言うように本当に増えたなら、日本はとてもよい国になると思う。映画「かあちゃん」は何の変哲もないストーリーなのだが、ところどころにユーモアがあって、言葉のやりとりに微妙な味わいがあって、ちょっぴり渋くって、およそ二時間足らずが、ほんわかと、あっという間に過ぎてしまう。何より声の響きが鮮明で、聞き取りやすく、字幕がいらない(?)邦画ということでもお奨めである。声と音のとりかたが絶妙である。