Love is over
かつてこんな歌が流行ったことがあったけれど、
愛が終わったから別れるということは哀しいことだけど、
よくよく考えてみれば至極純粋に生きている感情の表現だ。
でも、実際の人生よりも気取って聞こえもする。

昨日の連チャンのゴルフでついてくれたキャディーは、
若かりしころに私の職場にいた女性だった。
私が大卒、彼女が高卒の入社だったが、
彼女ははるかに私よりも早熟だった。
入社後一年で結婚をしたのを覚えている。
結婚退職はせずに働きつづけていたが、
子供が生まれて退社したがいつだったのかは、忘れてしまっている。

彼女は出会うと、気安くいつも私の名前をファーストネームで呼ぶ。
妻のことも奥さんとは言わずに名前で呼ぶ。
彼女が私のプレイにつくのは二年ぶりのことだった。

「○○さん、最近調子どう?」

「あかん、最悪や」
 
「浮気ばっかりしてるからとちがうの?」

「そんなうわさ訊いたことあるか?」

「よそでかくれてしてるんやろ。○子さんはいい人やから知らんふりしてくれているんよ」

「おまえ、そろそろ離婚したらどうなんや」

「内緒やけど、三年前にしたんよ」

「ええっ、するとは思てたけど、ほんまに別れられてよかったなあ。名札が代わってないから気づかんかったよ」

「子供のことがあるからこのままにしてるんよ。ほんまはこんな名前何の未練もないんやけどね」

「あの亭主、よう浮気してたようやけど、またどこかの女と暮らしてるんか?」

「若いころはなかなかもててたけどね、もう若くはないし、金もないおっさんやから誰も相手になんかしてくれへんわ」

あまりにうちわ話をするものでほかの人たちがけげんな顔で見ている。

彼女は、亭主に女と金で苦労をさせられた。
だから、男というものは浮気をするものだと思っている。
くさいパンツを洗ってやって、
三度のご飯を作ってやって、
まともに生活費も入れてくれず、
挙句に文句を言うと往復ビンタのようだった。
私は職場で、彼女が目のまわりを紫色にしていたことがあるのを覚えている。

あのときの亭主は見た目にはなかなかにいかした男、
彼女は恋に燃えなりふりかまわなかった。
だから、評判のよくないことなど気にならなかった。

19歳で子供を生んだ彼女はすでに孫がいる。
恋なんて三年で終わっていたのよと、
悟りきっているかのように彼女は言う。

「20年間いっしょに暮らしていたのに、いいことなんか思い出せもしない。三年前、あいつが作った借金がやっと返済できたから別れてやったの」

不思議と彼女には憂いがない。
割り切って生きていける女性は強いと思った。
これまでの人生に清々して、
これからの人生に前を向いてを生きている。

「Love is over」なんて気の利いた言葉より、
「Living is over」が彼女を生き返らせたようだった。

ハーフタイムで昼食をとりながら、
同伴プレーヤー四人で会話をする。

「退職金を持って帰った途端、離婚届を突きつけられる亭主がふえてきたようですね」

「いくら名義が男のものでも、全財産は夫婦が長年築き上げてきたものとして、離婚のときは折半するというのが民事裁判の判例のようですわ」

「男が浮気でもしとったら全財産没収いうこともあるようですよ」

私は黙って何も言わない。
いちばん年下だからということもあるにはある。

夫婦というものについてこう思う。
「Love is over」は離婚のせりふなんかじゃ絶対ない。

さて、自分のことには言及せぬことにして、
ちなみに昨日のゴルフはみずほ銀行なみのていたらくだった。