Myosotis alpestris
ワスレナグサ (ムラサキ科)


 ワスレナグサという、何かしら悲痛な響きをもった名のこの花には、園芸植物の華やかさやあでやかさよりは、むしろ、静かな気品が漂っているように見える。それは、名前の由来となった悲しい物語が広く知られているからでもあるが、改良の手があまり加えられず野生の美しさを保ちつづけているからかもしれない。

 「騎士ドルフと美しい乙女ベルタがドナウ川のほとりを歩いていた。水辺に咲く小さな花をベルタが見つけて欲しがったので、ルドルフは手を伸ばしてその花を採ろうとしたが、足を滑らせて流されてしまった。急流に押し流されながらも彼は花を岸辺に投げ、『私を忘れないで』と叫んで水中に没してしまった」

 イギリスやドイツにおけるこの花言葉「私を忘れないで」「真実の愛」なども、この物語に由来する。ワスレナグサの名のもとになった植物は、ミオソティス・スコルピオイデスのほうで、現在よく栽培されるミオソティス・アルペストリスではない。

 9月から10月に鉢や箱まきし、寒さが厳しくなる前に花壇に定植する。物語にもあるように、川べりのような適当な湿地を好み、乾燥地では株張りが悪い。寒さにはきわめて強く、雪の下でも越冬できる。陽だまりでは早春3月ごろから開花を始める。ワスレナグサは、やはり澄んだ空色の花にこそ味わいがあるようで、春花壇に貴重な青い色を提供している。