Narcissus
  水仙 (ヒガンバナ科)


 属名のナルキッススは、ギリシャ語で「麻痺させる」という意味の「ナルケ」に由来するとか、ギリシャ神話の美少年ナルキッソスの名にちなむとかいわれる。

 河神とニンフの子で美少年のナルキッソスが、ある日水を飲もうとして池の水面を見ると、そこに自分の姿が映っているのを見つけた。彼はそれをニンフのひとりだと思い、恋してしまった。恋いこがれて疲れ、ついには死んでしまったナルキッソスの跡に咲いた一輪の花に、森のニンフたちがナルキッソスの名をつけた、というのである。

 スイセンの花言葉は、この神話から「自己愛」「自己主義」とされ、そのうちラッパスイセンは「注目」「かなわぬ恋」とされる。またこの神話にちなみ、フランスのポール・バレリーは、その詩『ナルシス断章』にとらえられない自己を格調高くうたっている。

 ギリシャ神話には、スイセンにまつわる、もうひとつの物語がある。冥府の王ハーデースが、農耕と豊穣の神デーメーテールの娘ペルセポネーを妻にしようと地上から連れ去ったとき、彼女が驚いて落としたユリの花がスイセンになった、というのである。

 スイセンは最初に文学に現れた花のひとつである。ギリシャ最古の詩人ホメロスは、「燦然と輝いているスイセンは、不死の神々や死すべき人間にも、気高い光景である。その根より数多き花咲きいで、かぐわしい香りに大空や地上が微笑む」とうたった。

 また、ギリシャの悲劇詩人ソポクレースも「天上の露に育てられたスイセンは、昔より偉大な女神の冠する美しい房なる花を毎朝に花開く」と詠んでいる。

 古くから栽培され、鑑賞されたイギリスでは、シェークスピアや、多くの詩人を魅了した。自然を愛したワーズワースは「ひとり、わびしきさすらいに、黄金色なすスイセンを見ぬ・・・・・・・銀河の中に輝き、きらめいている星のように」と詠んでいる。ラッパスイセンの花は、復活祭の前のレント「四句節」の季節に咲くので、英名で「レント・リリー」ともよばれ、春を告げる花として親しまれている。

 マホメットは述べている。「二個のパンを持つ者は、一個をスイセンの花と換えよ、パンは体の糧だが、スイセンは心の糧である」と。

 室町時代以前に日本に渡来されたとされるニホンズイセンは、安土桃山時代には、松、杜若、蓮、菊、と並ぶ五立花のひとつとして生け花で重用された。また、江戸時代から俳句によく詠まれるなど、冬から春の花として親しまれている。

白色の花 ・・・・・・・神秘。好意をもつ。
黄色の花 ・・・・・・・私の愛情にこたえて、忘れないでください。
全体   ・・・・・・・尊敬する。自惚れる。自尊心がつよい。