地上の星
 去年の大晦日の紅白歌合戦、NHKのとっておきの目玉だったようである。ぼくは「地上の星」の世代のようだが、その歌を歌ったことがない。人気番組「プロジェクトX」の主題歌であるので知ってはいるが、歌詞のほうはあまり記憶できていない。たぶん好きでないのであり、中島みゆきらしくない歌だと思っている。が、中年(壮年)層を勇気づける歌らしく、カラオケやスナックでは、相変わらず、酒の勢いも借りながらの大合唱だそうである。

 ぼくはそんな彼らと同じほどの世代であるというのに、あの歌にあまり共鳴することがない。通俗的だからかもしれない。ぼくの知る中島みゆきは、はかなげで、苦くて、切なくて、少し恋しくて、叙情的だった。小椋佳のように歌(声の質)こそもうひとつなものの、青春のほろ苦さを忘れさせない、ピュアなタイプのシンガーソングライターだった。

 『私の声が聞こえますか』。この初期のアルバムには、「あぶな坂」「アザミ嬢のララバイ」「時代」などの珠玉の作品が収められている。幸い今年はNHKの紅白には出ないようだが、小林幸子や美川憲一らよろしく、紅白用に着飾った彼女は似合わない。時代錯誤でもなく、年を食って共感する「地上の星」などよりずっとずっといいものが、彼女にはあることをぼくは知っている。そして、ひとがあまり歌わなくなったかつての歌を、ジャケットを見つめながら徒然なる年末に聴いているのである。