個人向け国債
 郵便局や銀行、証券会社で第五回個人向け国債の販売が行われている。概要は変動金利制(最低金利保証付き)を採用しており、10年償還、初回適用利率は0.62%である。また、途中解約も可能であり、1年以上を経過すれば元本が保証されている。で、1単位が1万円と安価なため、とりわけ郵便局では売れ行きは好調のようである。

 日ごろからつきあいのある証券マンは、その販売に悪戦苦闘しているもようである。大手証券会社の販売総額は、郵便局などとは比較にならず、かなりのものであるらしい。いわゆる資産家なる人々を熟知しているからである。中堅管理職レベルでは1.000万円単位、億以上の契約を果すべく、それでさえ特定口座で多忙な時期だというのに、連日連夜顧客を訪ねて奔走している。株式の販売ならお手の物のぼくの担当者は、国債などという堅い商品が苦手だ。ローリスク、ローリターンなど性分に合わないのだろう。が、決してぼくには国債を勧めない。頭をいくら下げようが、買ってくれないことは重々承知だからだ。

 すでに購入されたかたにはよけいなお世話だが、国債などは買わないほうがよいと思う。1年0.62%という金利は銀行預金よりましかもしれないが、20%の源泉徴収をされれば0.496%。100万円購入して、金利はたった4.960円、1年経過後の途中解約を申し出ると、元金は返還されるが、そのとき1年分の金利(0.62%)返還を求められるから、実質は源泉徴収分の損である。だから、1年と6ヶ月以上ホールドしないと元はとれない。いざというとき動かせないデメリットを考えれば、5.000円くらい節約しようと思えばできる。

 個人向け国債とは、国の国民への借金である。これまでの一般国債は10〜20年物で、満期がくればかなりの金利だった。個人向けなどなく、都市銀行、地銀、信用金庫などの金融機関が主に購入をしていた。もちろん、貸出金利よりは安く、預り金利よりは高かった。年々、その過去の国債の償還を迎えていて、国家はその返済と、それに加えて新たな財源を確保せざるをえなくなっている。数年、税収が歳出をはるかに下回る状況が続いているからだ。

 で、財務省は貯金大好き国民に白羽の矢を立てた。逼迫した財政は個人に頼らざるを得なくなったのである。第1回を試しにやったとき、予想以上によく売れた。財務省はそれに気をよくして、2回、3回、4回と連発し、今回に至ったのである。国民が、だらしない日本の銀行というものを信頼していない結果でもある。が、付和雷同的国民性と指摘することもできる。右へ倣えが大好きな日本人は、国債という名の金融商品に安心しきっている。

 アルゼンチン国債の84%が藻屑と消えた。社会の中枢にいる連中ですら経済音痴がいかに多いことか。オーストラリアはすでに昨年国債の発行をやめており、世界中が低金利に喘ぐなか、ジャパンマネーを中心とした海外のお金が流入しつづけ、金利はさらに上昇をした。現在では、豪ドル債では5%以上の金利が保証されるまでにいたった。

 ぼくが国債を勧めない理由は、金利が低いからじゃない。一般国債の発行でも財源が間に合わず、それを個人に向けてきたということは、国の金融情勢がメガバンクなどの金融機関と表裏一体だということだ。うすっぺらい皮一枚、せずにすむ公共事業を繰り返し、地方と共に無駄金ばかりを使う旧態依然とした役人体制、それを整理収拾できずにいるジレンマ。やってのけることは思いつきの安易なことばかり。手をこまねき、時ばかりがすぎていく。

 個人向け国債は、今後も途絶えることなく毎年発行されるだろう。おそらく1年に4回以上。そして、10年がすぎたとき、それからは国債の償還のための国債を発行することになるだろう。雪だるま式に積み重なる国債という名の借金、経済が回復すればという希望のもとになされているのだろうが、それは淡くはかないものだ。個人向け国債は愚の骨頂だと思っている。してやったりとほくそえんでいる財務省役人たち、10年もすれば次の世代がそのお荷物を背負うことになる。だから、ぼくは国債を勧めないし、絶対買わない。マニフェストなんてどうでもいいから、早く自力回復の道程をともに歩んで生きたいと切に願う。

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