こぼれ種
 毎年この時期、夏の草花の片づけをしていると、こぼれ種から芽を吹いて間がない、はかなげなインパチェンスを目にする。小さなくせに、必死で蕾をつけようとしている。それは日々冷たくなる気温のせいだ。最低気温が摂氏五度を下回ると枯れ死するため、短いのを覚悟で、自然の摂理のままに生きようとしている。

 そんななかから五つほど、形のよいものを選んで、三号のプラスチックの鉢に植え替えてやる。鉢受けを用意して、居間の南の陽だまりへと持っていく。草花に太陽の光は欠かせない。そうすると、冬の間、ごくごくわずかだが成長を続け、観葉植物のように緑の葉を湛えてくる。そして、早春に花開き、三月の中旬には芽を出した場所へもどしてやる。花屋さんの店先に苗が並ぶころより、少なくとも半月は早い。

 夏の花のインパチェンスが、陽春のころにはすでに太い茎を持ち、ピークの花盛りを迎える。盛夏には剪定を施し、再度秋の開花を待つ。中秋、見事に満開となった花は、ホウセンカと似た種を結実し、はじけた種がそこかしこに落ちて、芽を吹く。こんな繰り返しを何年続けたことだろう。季節を肌で感じながら生きていけることに、夕陽を見ながらしみじみとほほえんでしまうのである。

 インパチェンス(アフリカホウセンカ) タンザニア、モザンビーク原産
 ツリフネソウ科