夕暮れ
 秋の夕焼けは美しくて魅力的だ。が、ずっと陽が落ちるのを眺めていると、なんだかこころ寂しくなってくる。高校時代、教室の窓から夕暮れを見ていたときを思い出す。せつなくて、ほろりと涙がこぼれそうになったあのときを。

 陽が落ちて街に灯が点りはじめ、こうもりが飛び交い、カラスの鳴き声が終わる。やがて深い闇に向かって、空は群青から深玄へと変わっていく。吹く風は冷たさをまして、厚手のセーターが欲しくなる。

 こころ寂しく感じるのは、単にメランコリックなせいだけであろうか? あのころよりかなりの齢を経て、自らの季節を投影させているのではないだろうか? ばかなことを・・・。

 10年前の函館での夜の訪れを思い出す。あのときも過ぎ去った日々が浮かんでは消えた。となりにいたカップルが、ウォークマンで『サウンド・オブ・サイレンス』を聴いていた。かすかな音だったが、風に運ばれて流れていった。『ハロー暗闇さん・・・』とぼくは口笛を吹いてたっけ。

 紅葉したかのごとくに燃えるように咲き乱れるマリーゴールドの三色、黄、橙、山吹。はかなげなスウィート・アリッサムの白い花からは、うっとりとなる香水の匂いが漂ってくる。季節は一年の終わりを迎え、ひとのこころにその一年を焼きつけようとする。沈む夕陽と大きく育った銀杏の木を背景に、ぼくは函館のときにはなかったデジタルのカメラを覗き、あるものに惜別の情をこめてシャッターを押した。