冷ややかな関係
 弟妹に時を同じくして離婚騒動が勃発した。突発的な些細なことであれば、収拾がついて後で他愛もないことだったと笑えるのだろうが、いささか頻度があって、それなりの伏線を引っぱっているからことはなかなか面倒である。

 弟のほうは子供の手が離れたとき、放り出される怖れがある。全然、わかっていないから始末が悪い。いちばんかみさんが嫌がっていることを、多少奉仕じみた調子でやってのける。人に頼まれると断ることをしない。おだてられて断ることができない。かみさんが最後の引導を渡すつもりで忠告したのに、今回もまたきかなかった。

 で、「わたし、家政婦じゃないわ」と一言。昼の弁当はむろんのこと、朝夕の食事、洗濯を拒否された。それが延々一週間ばかりつづいてしごく困りはてた。母がいなくなった現在、そんなバカらしい相談事にのらされるのは、ぼくではなくぼくのかみさんである。

 弟はぼくがこわいのである。激昂される怖れがあるから、ぼくは弟妹にはけむたい存在なのである。実のところ、ぼくは他人の夫婦間のことが大嫌いなので、これまで何かあるたびに、「別れたかったら別れたほうがええ。なんべんもぐずぐずいうてるより別れて、別々に暮らしたほうがよっぽどすっきりするやろ」ととりつく島がなかった。それをきつく叱られたように思っているのであろう。むろん、彼らにとって、父がぼく以上に怖ろしい存在であることはいうまでもない。

 かみさんはあした、弟によくいってきかせるそうだ。弟のほうが悪いこと、善処しないなら、今度はほんとうに離縁されてしまうよと。今すぐでなくても、子供が高校を卒業したとき、あなたはひとりぼっちになるわよと。

 さて、弟は単細胞だから、よおくいってきかせれば良いほうへの可能性がなくもない。ぼく自身は悲観的であるのだけれども。問題は妹のほうである。大学時代の仲のよかった友達にバツイチ、バツニがおり、彼女たちが離婚を煽りたてるようである。甲斐性のない亭主なんて・・・、エトセトラというやつである。

 「ボーイフレンド作ろうと思うんだけどどうかしら?」 電話での悩み事相談のあげく、その質問にはかみさんもあきれはてた。少々叱責したとき、「おねえさんはまじめなのね」と返され二の句が継げなかった。度々の夜の長電話、このときばかりはつきあわされるかみさんに悪いと思った。寝られやしない。以後、表向きの電話は午後十時以降、鳴らしっぱなしである。

 夫婦喧嘩は犬も食わない、とはよく使われる言葉である。が、そんなトーンの夫婦喧嘩はほほえましくもある。痴話げんかのほうがまだましだとさえ思う。ぐずぐずぐずぐず、とめどなく、互いに不満をくすぶらせて、辛抱しいしい暮らしている夫婦なんて・・・、宵越しでいさかいあうことが大嫌いなぼくは、ほんとうに別れればよいと思っているのである。たとえ、親兄弟であろうとも。

 彼らにず〜っと鞘は残されているのであろうか?