カミュのノートより
 小説。この物語は青い燃えるような海辺にはじまっている。二人の若者たちの褐色の肌、水遊び、そして太陽。夏の夜の海辺の道、暗い夜の底から果樹や煙草の匂いが立ちのぼってくる。肉体と、薄い衣服に身を包んだくつろぎ。十七歳の心に忍びよるやさしいひそかな陶酔と魅惑。

 ――パリで迎える終幕。寒気、あるいは灰色の空、パレ・ロワイヤルの黒い小石にまじる鳩。シテとその陽の光。素早い接吻、いらだたしい不安な愛情。二十四歳の男の心に湧きあがる欲情と分別―― <友だちのままでいよう>

 同じく、寒い嵐の一夜にはじまる別の物語。糸杉の根元に寝ころんで、空をよぎっていく星や雲を見つめている。

 ――アルジェの丘の上、あるいは神秘的で大きな港を前にした丘の上の情景がそれにつづく。

 ――みすぼらしいが素敵なカスバ。海に向かってずらりと墓が立ち並ぶエル・ケタールの墓場。柘榴の木とひとつの墓穴のあいだでかわされる熱い柔らかな唇――樹木、丘、乾いた清らかなブーザレアに向かっていく山道、そして海に向かう帰り道。唇にのこる味、そして眼にいっぱいしみる太陽。

 これらのことは、恋ではなく生きようとする欲望にはじまる。海の上にある大きな四角な家で、二人の身体が合わさる。そして風にひるがえったあと、彼らはひしと抱きあっている。水平線の彼方から、海のしめやかな吐息が、世界のなかで隔絶されたその部屋にたちこめる。そんな時、愛はかくも遠いのであろうか? 素敵な夜、愛の希望はあの雨や、空や、地上の沈黙とわかつことはできない。外側から結ばれ、世界のこの瞬間以外のなにものにも無関心であることによって互いに魅せられてしまったこの二人の存在には、まさにある平衡がある。

 このほかの瞬間、たとえばダンスのようなとき、彼女は流行の衣服に身をつつみ、彼は舞踏の衣装に身をこらしている。


 なぜか鉛筆で囲まれていた