きのこの子
 年末年始に家族がそろったとき、子供たち三人が歌を歌っていた。娘が振り付けを弟に教えたりして、とても楽しそうだった。とても単純な歌だったが、聞けばとても流行っていると言う。が、あんまり僕の好みじゃなかったので、少々やかましいほどだった。また、たいやき君もどきの歌が流行っているのだろうと思っていた。

 三日ほど続けて聞いていると、いやでも歌詞が耳に入ってきた。『うん、ホクト?北斗の剣じゃないよな。まいたけ、エリンギ、ぶなしめじ・・・・・、きのこの子かあ』

 「お父さん、なにぶつぶつ言ってるの?」 と娘が言った。

 「ホクトって、ホクト産業のことか?」

 「そうだよ。よくわかったね。今CMでめっちゃ人気なの」

 「お母さんと買い物に行くと、たいてい売り切れてるよ。ホクトのきのこ買って応募すると、抽選で’きのこの子’のCDが当たるんだ」 と、今度は小学生の二男。

 「雪国まいたけは?」

 「それはホクトほど売れてないよ。いつも売り場にあるもん」

 「ううむ、1379のホクト産業か・・・・・」

 「おとうさん、パソコン借りるよ。弟にきのこの曲とってやりたいから」 と長男。

 それから二週間が経った。子供たちの目は大人よりずっと確かだ。長男がセガ・サターンだめだと言ったとき、光通信のヒットショップがだめだと言ったとき、両社ともにピークだった。そのころを境に、両社は撃墜されたジェット機のように、山の頂上から転がる岩のように急降下していった。空売っていたなら、僕は億万長者になれていた。(そんな根性ないくせに)

 1月6日の大発会の日、僕は寄り付きで1379を1,000株買った。昨年秋、3,000円台から暴落して2,000円ほどに下がって、2,000円台中ほどに戻しかけたところだった。暴落の理由は業績下方修正、値戻しの理由はコマーシャルソングの大ヒット、どうやら株価は踊り場のようであった。なかなか買った値を上回らない。歌のヒットを知るのが少々遅かったようでもある。

 市場は悪材料にはいくらでも反応するが、好材料には飽きが早い。ホクト産業が今以上に上値を追うには、業績予想上方修正が必要か。で、昨日どうにか売り逃げて6,000円あまりの利益。今のご時世、株を買って儲けるのはたやすくはない。