威嚇
 ビデオ「ミナミの帝王」を見てからのことである。

 最近、私は商品先物業者なる実態の知れないやからの電話に悩まされていた。いわゆる高収益の資金運用を持ちかけて、ビギナーズラックよろしく最初だけ儲けさせて、あとは骨の髄までしゃぶるという悪質な連中だ。株式だと、投資した先の会社が倒産して、おけらにあることはあっても、やつらの商品先物のように追い金を徴収されることはない。追い金が発生すると、底なし沼に入り込んだかように二度と這いあがれなくなる。その生き地獄から逃れ出るには自己破産しかない。

 私は金融の内情には詳しい方なので、いかがわしい相手とは絶対つきあわないが、彼らの電話のしつこさには辟易させられる。断っても断ってもなかなか電話を切らせてくれない。怒鳴りつけて電話を切ろうと何度も思うが、彼らの多くはかたぎの人間じゃない。丁重に断って、諦めさせなければ面倒極まりない。どこから私の家の電話番号を見つけてきたのだろうかと思うのだが、まあ蛇の道は蛇である。

 ようやく諦めさせて電話を切った矢先の、また電話である。私は疲れていたし、苛立ってもいた。着信者名は不明、私は無視を決め込んだ。だが、着信音は鳴りやまず、やかましいので受話器をとった。

 「もしもし」

 「ボク、小林といいます。○○ちゃんいますか?」

 相手の電話の周辺が騒がしい。いつもの友達を装った勧誘電話である。これも騙しという点では先の電話と変らない。数においてはこれのほうが甚だしく多い。

 「われ、ここをどこや思うて電話かけとるんじゃい。おまえ、小林いうたのう、しばかれたいんか。おんどれらみたいなガキが、きやすう電話できる場所やおもてけつかんのか。あほんだら!」

 「すっ、すみません。まちがえました」

 私は「ミナミの帝王」のつもりになって憤っていた。よくもまあ、こんなガラのわるい言葉が使えたものである。