肩ごしの恋人
 賞と名のつくものをすぐに買って読むのは好きではないのだが、唯川 恵という作家のことを全然知らなかったので、敢えてそうしてみた。

 軽いタッチの作品だった。まるでコミックを読んでいるような感じの・・・・・。主人公の二人の女性は、幼児期からの親友だが、全くといっていいほど別な性格だ。萌はるり子に恋人をとられて結婚されても怒りもしない。萌はたまたまその披露宴で知りあった、るり子の不倫相手の男とラブホテルへ直行する。

 るり子は美貌を武器に男をとっかえひっかえ結婚するが、すぐに飽きてしまって離婚をする。結婚願望は人一倍なのだが、目的が達せられると、徐々に興ざめしていくようだ。

 萌は慎重で冷静な女だ。自分だけのものを失いたくない。自分の領域の深くにまで他人を入らせたくない。それが男と寝ることはあっても、その男に溺れまいとする要因だ。

 ラストシーン、萌が十五歳の少年の子供を宿して、少年には黙ったままで産もうとする姿は、私の琴線にいささかも触れはしない。そこには、作者の言葉があるだけであり、それをこともなげに読み終える自分がいるだけである。

 「夜が静かに更けてゆく。夜はいつだって、朝を連れてくる約束を果たす。だから、人は安心して眠りにつける。ふたりは再び歩き始めた」

 291ページ、作品としては最後の言葉だけで十分である。といって、つまらないとか楽しめなかったというわけではない。最初に言ったように、コミックを読むみたいにかる〜く楽しく読むことができた。とりわけ文ちゃんとリュウ、二人のホモセクシャルの登場は、なかなかに愉快だった。彼らとの歯切れのよい会話が、面白くもない男たちとのやりとりを補ってあまりある。だが、もう一度読む気にはなれない。

 
 ジャンルはちがうが、野坂昭如の「火垂るの墓」などと較べると、この直木賞なんて・・・・・・、と思わなくもない。賞は毎回必要ではないと思うのだが。