手水
 ちょうずと読む。キーボードでちょうずと打って変換すれば手水となる。

 昨夜、「浮草」を見ていて、厠から出てきた女が手水鉢で手を洗っていた。ごくごく幼少のころ、田舎へ遊びに行っていたときのなつかしくおぼろげな記憶がよみがえった。水道が完備していない時代、もしくはそんな田舎。ああやって手を洗ったこと、軒先からぶら下がった、バケツのようなアルミの入れ物の底にある棒を手のひらで下から押し上げるようにすると、如雨露からこぼれ落ちるように水が出てきた。

 記憶はかつて見た映像とオーバーラップしている可能性がある。手水鉢なる単語は全くに思い当たらなかった。だから、亡母の弟、叔父に電話をして尋ねた。すぐに「ちょうず」だと教えてくれた。現在も「ちょうずばち」を使っているところはあるかと尋(き)いてみたが、そんなところはもうないと言っていた。

 小津の映像を見ていると、現在の映像では到底醸しだせないような、かつての生の日本がある。昭和の初め、戦後の自分が生れる以前、そして、生れ出でた時代・・・。田舎へ行っていて、ぼく自身が旅芸人を見たことがあるかどうかは定かではない。が、小津安二郎の作品のような映像を、子供のころ見た記憶はまちがいなく残っている。