疑わしきは
 1996年、大阪府堺市のO157集団食中毒事件で、旧厚生省に原因食材であるかのように公表され、信用を失墜させられたとして羽曳野市のカイワレ生産業「南野農園」の経営者が国を相手取って起していた損害賠償請求訴訟の控訴審判決が19日、大阪高裁であった。

 一審では国側敗訴、二審でも敗訴だった。中田昭孝裁判長は「十分な科学的根拠がないのに、厚相(当時)らはカイワレ大根が原因食材であることが確定的であるかのような印象を与える公表をしており、違法」として、国に600万円の賠償を命じた2002年3月の1審大阪地裁判決を支持し、国の控訴を棄却した。

 ときの与党の厚生大臣は、現民主党代表、菅直人である。あの事件では、我々が新聞やテレビのニュースだけでも「なぜ、カイワレが犯人だ?」とその証拠の信憑性を訝ったものだ。事件の性質はちがうが、松本サリン事件の河野さん逮捕のレベルに似ていた。疑わしきは罰せずと法にある。寝耳に水のような物証なるものを突きつけられて、犯人に仕立てられるということは、社会で生きる人間にとってどのような意味をなすのだろうか。

 誹謗中傷はむろんのこと、これまで築いてきた事業、社会的地位などはすべてが無に化す。当時はカイワレブームで、設備増強にかなりの借金をしていて、倒産の危機すら生じたと聞く。絶望に襲われ、生きていくことすら苦しくなったときがあるかもしれない。マスコミに報道されるたび、どれほどの辛酸をなめてきたことだろう。ある面、この事件も冤罪といえる。

 国会で小泉首相と対峙する菅直人の謝罪の弁を聞いたことがない。古賀潤一郎ごときを辞職させられない民主党代表にはうんざりさせられるばかりだ。