万年床
 ものぐさである。
 不精である。

 週末から引き続いて、来客の予定がないと万年床になるときがある。デスクの向こうに布団が敷きっぱなしである。一見、見苦しくもあるが、あまり気にもならない。この28畳の白い広い部屋は、ぼくの仕事場であり、居間であり、寝床となっている。

 断っておくが、決してかみさんと仲たがいしているわけではない。はやりの家庭内別居でも断じてない。朝が早いかみさんと夜が遅いぼくとでは一日の生活パターンが違う。で、ここだけの話だが、4年前よりかみさんのいびきが少々大きくなった。ぼくはいびきが嫌いなのである。といって、ぐっすりと眠っているのをやかましいと起すわけにもいかない。愛妻であろうとなかろうと、両方の鼻の穴に濡れティッシュを詰めることや、濡れタオルを顔にかぶせることなどは一介の男子としてできることではない。

 一人寝は寂しかろうと、かみさんのことを心配しないでほしい。同時刻に床に入り、同時刻に起床する小五の息子が吾の代わりを務めてくれている。息子はやわらかくて、いいにおいがして、そばにいるだけでよく眠れるようである。が、断じて甘やかして育ててはいない。息子はマザコンではない。あと一年あまりもすれば中学生であり、快適な寝室からかみさんが追い出されることになっている。さてそれからどうするかと問われても、一年後のことは一年後である。

 ときどき妹の亭主がふらりとやってくる。やってくるのはいいが、平気で布団を踏みつける。広い部屋なのだから、わざわざ布団の上を通らずともよいと思うのだが、ぜんぜん頓着しない。ぼくは不精ではあるが、不潔なのは大嫌いなのである。洗濯したてもしくはまっさらの靴下以外で、吾が身に触れるものの上を歩かれると気色が悪くてたまらない。

 ときどき事務の女性が、こつこつ小さな音でノックしたつもりが、こちとらが気づけず、入ってこられると、どっと寝込みを襲われたような居心地の悪い気分になる。何食わぬ顔で応対するのであるが、みっともなさはやはり残る。

 寒いのが悪いのだと、ものぐさを季節のせいにする。起き掛けに布団を上げないで、朝食をとり、パソコンをオンにし、即仕事にかかるからついほったらかしになる。どうせ夜また敷くのだからと、面倒くさくなる。ときおり予期せぬ来客があっても玄関で応対を済ますことがある。相手は上がりたがっているのにとりつく島を与えられない。

 明日はかならず布団を上げよう。あさっても・・・、しあさっての土曜日が問題だ。一時間は長く寝る。日曜日はゴルフで、朝が早くて布団を上げる間もない。さて、軽い布団一枚で寝られる夏が早いことくるといい。いくら無精者でもそれなら起き掛けに右手一本で済ませられる。