雪の日の午後のティーターム
 トム・クルーズは不世出の大スターたる風格を備えてきた。容貌もさることながら、品格、演技力においても。森の中心で、際だって凛々しく、美しく、微動だにしない一本の樹木。世の女性ファンが熱狂する理由がわかる。少々空恐ろしさを感じるほどだ。

 が、ぼくは森全体を見ようとする。今までいろいろな映画、小説、音楽を見聞きしてきたが、その作品が好きということと、それを作った、演じたアーティストが好きだということとは直結しない。その逆もありで、夏目雅子は大好きだが、彼女の出演した作品で、あんまり気にいったものはない。また、珠玉の作品を求めているわけでなく、小品でもいい、波長が合うものに巡り合いたいだけだ。

 きのうの記で、「ラスト・サムライ」をひどくこき下ろしたつもりはないのだが、それなりの批判はしている。先にトム・クルーズありきのかたには、こき下ろしたと思われても仕方がない。彼はあの映画の頂点で、まちがいなく光り輝いていた。冒頭に述べたように、彼は不世出の大スターたる歩みを見せている。ぼくはなまじっか、時代劇、時代小説に精通しているばかりに、また、好きであるばかりに、あの映画の相容れない部分(日本のあの時代の普遍のもの<精神>といってもよい)を感じとって、無邪気に楽しむことはできなかった。それが作品としての森全体なんだと思う。

 トム・クルーズの作品では、「7月4日に生まれて 」「ザ・ファーム 法律事務所」が好きだ。で、これからあんまり彼のことは語るまい・・・、それが午後の休憩時間のぼくの偽らざる気持ちである。以心伝心は、ぼくの筆力ではかなわない。