やっぱり
 「芥川龍之介賞・直木三十五賞は個人賞にして、広く各新聞雑誌(同人雑誌を含む)に発表されたる無名、若しくは新進作家の創作中最も優秀なるものに呈す」 芥川・直木賞宣言 (昭和10年1月)

 第130回芥川賞は、金原ひとみ(20)と綿矢りさ(19)、同直木賞は江國香織(39)と京極夏彦(40)に決まった。

 若い二人の女性の受賞は、共に史上最年少を記録した。綿矢りさの「蹴りたい背中」はイズミヤの本屋で、30分で半分ほど立ち読みしていた。金原ひとみの「蛇にピアス」は昨年11月にすばる文学賞を受賞していたので、もう一発という予感はあった。

 時代が変わるので過去とは比べられない。選者の石原慎太郎が、「若い女性たちらしい小説だけども、三つとも物足りないね。肝心なものが欠けている」と述べているが、そのなかでひとり選にもれた立教大文学部1年、島本理生(りお)(20)の「生まれる森」について、受賞作と帯に短し・・・のたぐいのものではなかったかと思う。出版業界不振の折、「受賞なし」は避けたいところ。といって、三作も選ぶわけにもいかなかった。で、史上最年少の女性二人が同時受賞とくれば、当面ニュースソースには事欠かない。同年代、若者たちに売れ行きは好調だろう。文字数が少なくて、行間が広く、簡潔で、わかりやすく、コミック感覚、現在のはやりのハードカバーの必須要素だ。

 過去の芥川賞受賞作品の半数以上が絶版になっている。単なる時代の風物のようであれば消えてなくなるし、普遍のものであれば残り続けるだろう。もういっぺん、イズミヤへ行って、残りのページを読んでしまおう。いくら送料無料でも、アマゾンで買うほどに興味はない。土曜日は暇だから、時間が余れば「蛇のピアス」も読んでみるか。

 過去の芥川賞、太宰治は第一回芥川賞が欲しくて欲しくてたまらなかった。選者の川端康成に恥を忍んで、直々に頼みこんだほどである。懇願の手紙をなんども書いた。だが、だめだった。彼の日々の素行が悪かったからである。当時の文学界の重鎮(とにもかくにも志賀直哉)たちに嫌悪されていた。彼の作品が下劣だという理由と、人間的によくないという理由で。が、その後の多くの受賞作が消えてなくなり、太宰の小説が、鴎外や漱石、川端をもしのぐほど書店に並べられているというのは皮肉なことだ。さらに、太宰を打ち負かした、社会派石川達三の数々の作品が、文庫の中で最も絶版率が高いという現象も皮肉なことだ。かろうじて、第一回の受賞作「蒼氓」はその姿をとどめている。

 受賞作家で記憶に残る作家をあげてみる。井上靖、安部公房、松本清張、吉行淳之介、遠藤周作、石原慎太郎、開高健、大江健三郎、北杜夫、村上龍、宮本輝、辻仁成、柳美里、とまあこんなところか。三島由紀夫も村上春樹もそこにはいない。結果的に太宰も受賞しなくて正解だった。彼らのなかでは、安部公房がぼくのいちばんのお奨めである。

 直木賞については、このまえ述べたように形骸化しつつある。出版功労賞的な意味あい、売れ行きのよい作品を数多く執筆している作家に、順送りにしている。ま、これはこれでいいんじゃないの。

PS こっちのほうが楽しそう。2003年ベスト・ミステリートップ10。国内編と海外編がある。ヤフーのトップページのいちばん上。