酔いどれトムの歌
 BGMに Tom Waits の曲を流していた。あの酔っぱらったようなダミ声を聴きながらでは、ほかの二人の仕事が、はかどらないだろうことを意識して。

 トム・ウェイツは1950年生まれ。作曲活動だけでなく、フランスス・コッポラの映画挿入歌や出演など幅広い。役者としては、「地獄の黙示録」や「黄昏に燃えて」など短いシーンが多い。が、「黄昏に燃えて」では、ジャック・ニコルソン、メリル・ストリープにかないっこないんだけど、あの2人に挑戦してるような気もする。

 ピアノの弾き語りのスタイルで、徐々にジャズ風のトランペットやギターがサウンドに加わってくる。歌詞は一貫して都会人たちの哀愁や悲恋物語、バーや裏通りにたむろする人々の心情を歌っている。殊に都会の片隅の描写、そこで起こる物語の歌詞では右に出るものがないほどだ。晦渋さではボブ・ディランと双璧。そして、突如としてサウンドや歌詞に変化が起き、奇怪なパーカッションが入り乱れる中で、魑魅魍魎が狂騒する世界のような物語、さながら奇怪なお伽噺ともいうべきダーク・ファンタジーが語られるようになってゆく。

 実はこのMD、どうにかレコードからカセットにとり、コンポでMDに移しかえた。だから、ダミ声がよけいにダミ声に聞こえてくる。少しボリュームを落として、ソフトなタッチに見せかけて・・・。

 でも、女性のほうが我慢しきれなくなっていう。「なんか、場末の飲み屋の喧騒のようですね」。よおくわかってるじゃない。ジャケットの中にある歌詞カード見せようか。「もうちょっと、もうちょっとだけボリューム落としてもらえませんか?」。ふん、これ以上落したらかけてないのもおんなじだ。

 トム・ウェイツの弾き語りは、都会人の哀愁路線、ナイトクラブ向きなんだろう。一度耳にしたら忘れない声、知ってしまったらどこまでも追いかけてくる歌詞、その強烈な個性ゆえに一般ウケはしないものの熱烈なファンが後を絶たないのがトム・ウェイツなんだろうな。が、ぼくのは全くの気まぐれ。たまたま「地獄の黙示録」で Tom Waits の名前を目にしたから。でも、日が沈んで、夜の闇の中で聴いてみると、案外はまってしまうかも。