サイレント・ジョー
 ☆☆☆☆

 「どんな人間でも傷がある、だが、たいていの人間はそれを内にもっている。おまえの顔はたまたまその傷が外にあるだけだ」

 「口は閉ざし、眼は開けておけ。そこから何か得るものがあるかもしれない」

 寡黙で礼儀正しく、かつ心身ともに精悍なジョー、上記の義父の教えを忠実に守り、保安官補として黙々と働いていた。ジョーには信念がある。「わたしは地獄で作られたような顔をしているだけではない。背も高く身体も鍛えている」武器と護身テクニックに精通、加えて、他人に対する警戒心を、理性と礼儀正しさに巧みに隠す繊細さもある。


 ジョーは生後9か月で実の父親に硫酸をかけられ顔に大きな傷が残った。施設に預けられた彼は5才の時、トロナ夫妻に引き取られ、今は刑務所の看守をしながら郡政委員である養父ウィルの仕事を手伝っている。ある夜、目的を告げられぬまま何かの取引に同行した彼の目の前でウィルが射殺される。どうやら身代金目的の誘拐事件に絡む取引だったらしい。

 ジョーは義父の仇を討つべく、また事件の謎を解くべく、犯人探しに奔走する。解き明かされていく真実、醜くなった自分の顔の真相、女性を愛すること、自分を愛してくれる女性との遭遇、そして、ほんとうの父と母。主人公像が多少アメリカ人好みの感は否めないが、正統派ハードボイルドミステリーとして、読み応えのある作品となっている。

 注意深く読んでいると、こんな形容に出会うことができる。「孤独が彼をとりかこんでいた。まるで土星の輪のように」

 
 T・ジェファーソン・パーカー作
 訳 七搦(ななからげ)理美子