セイコー・エプソン
 本日、セイコー・エプソンが東京証券取引所一部に新規上場をした。最近、やけに『カラリオ』のCMが多いと感じられたひともあったことだろう。知名度アップとともに上場成功を果したかったためと思われる。株式上場は事業規模拡大のための資金調達であり、また既存株主(主に創業者およびベンチャーキャピタル)のキャピタルゲイン(株式を売却したときの利益)を得るためでもある。

 一ヶ月前の上場発表当時、前評判はあまり芳しくなかった。前期、2002年度が赤字だったことと、BB(需要積み上げのための仮条件 2.150〜2.450円)の設定が高いということからだった。

 が、一般投資家のネガティブな予測に反して、機関投資家および海外での需要はかなり旺盛で、仮条件の上限が2.450円から2.600円に引き上げられた。そのとき、主幹事、日興証券への個人投資家のブーイングは異常なほどに鳴り響いたものだった。引き上げられたということは、すなわち発行株価は2.600円に決まったも同じだったから。最低単価が245.000円でも高いと思っていた個人が、さらに15.000円高い260.000円に二の足を踏んだのだ。

 以後、『絶対に損をする』『キャンセルしてやる』『個人投資家を馬鹿にするな!』 などという日興とエプソンを非難する意見がネット上では多数を占めた。公募株が手に入るかどうかもわからないときにである。

 結局、エプソン上場にポジティブなスタンスをとっていた投資家ですら予期できぬ上場前人気となった。むろん発行株価は上限の2.600円に決定し、十分な数量を確保できるともくろんでいた投資家においても、その配分株数は想定外の少なさだった。

 いわんや、文句と欲望の塊のような個人投資家は当てがはずれ、最低単位数100株を10人に1人が手にしたほどにとどまった。先週月曜日のことである。

 ヤフーのメインにある「ファイナンス」のなかに「新規上場企業情報」というのがある。そこの掲示板ではあることないことが書かれており、無知と偽りと悪意に満ちている。付和雷同の象徴ともいうべき無残な場所で、かつてのバブル崩壊後『誰も彼もがよくわからない株に手を出して、損切りができず、大損をして、諸外国から一億総白痴といわれた』状況を髣髴させられる。

 そんな場所へたまたまぼくは出入りをした。初めのころ、ネガティブな意見群に対してポジティブな見解を述べた。三分の一が海外募集で、プリンターという時流に合ったエプソンの公募なら勝てると思ったからだ。すると、主幹事日興のまわし者かと反論された。礼節をわきまえない、とてもレベルの低い文言によってである。それに比べると、ガイアックスの書き込みはかなり節度ある快いものだ、とぼくは改めて思った。

 6月20日、ロンドンのグレーマーケットで『3.200円で取引されている』という情報が流れるやいなや、今度はネガティブな意見が極端に減り、公募株を取得できなかった恨み節が幹事証券へと向けられた。そして今日、取得できなかった向きが初値買いに走ったのである。

 評判どおりに午前9時より2.000万株以上の買い物を集めた。そして、およそ10時30分、買い気配を切り上げていたエプソン株はなんと1.090円高の3.690円で寄りついた。新規公開、エプソンの最初の株価である。これほどの大型案件において、予想をはるかにを超えたものだった。

 またロンドンでのグレーマーケットより490円も高かった。グレーマーケットはいわば裏取引であり、一般の投資家は出入りすることができない。ジョージ・ソロス級の人物かユダヤの金融機関のような存在くらいしか、ぼくには想像できない。金の世界はある意味で闇の世界だ。闇の世界の連中がまた数億円規模のお金をもうけた。日本のメガバンクが信じられないような損金を出していることに比べて、彼らがいかに卓越したマネーゲームを演じられるかがわかる。

 エプソンの上場は本日成功裏に終わった。東証一部の売買高の一割強の1.000億円を超える出来高がそれを物語っている。が、本日買った向きは全員が含み損を抱え込んだ。終値は安値引けの3.510円。明日からどうなるかは誰にもわからない。小心な人々は不安を抱えたまま夜をすごさなくてはならない。小額な資金でも、ひとによってはふところを痛めるほどの高額なものとなる。

 勇気は冷静に最初にふるうものであり、誰も彼もが気負いはじめたとき、それは勇気あるものではなく一蓮托生の烏合の衆だ。2.600円を否定し、3.690円で買う愚かしさ。何度、日本人は同じことを繰り返すのであろうか。とどのつまりは、ないものねだりの果ての愚の骨頂。どうかみなさん、株にはくれぐれもご用心。