全米オープンゴルフトーナメント
 ゴルフ世界一を決める全米オープンゴルフがアメリカイリノイ州で開催されている。まもなく三日目、決勝ラウンドがはじまる。

 田中秀道選手を応援している。身長166センチ、当地ではジュニア・ハイスクールの低学年ほどの体型だ。先月男子ツアーに挑戦した女子プロゴルファー、アニカ・ソレンスタムと同じほどで、男子としては至極華奢だ。またすでに32歳だから、若いというほどでもない。が、彼の初々しい溌剌としたプレイは、アメリカのゴルフファンにとても評価されている。ときどき、女性たちに『キューティ』といわれることもある。少年のような凛々しい顔立ちをしているから、インタビューにすがすがしく応えるから。

 予選ラウンド、イーブンパーの27位で、決勝ラウンドに日本人としてただ一人進んだ。谷口選手のように、日本ツアー賞金ランキング一位として招待を受けたのではなく、5.000人以上が参加した予選を勝ち抜いてこのメジャートーナメントの出場資格を得た。

 言い訳ばかりして予選落ちをくりかえす丸山茂樹が、放映中のコマーシャルに何度も顔を出すのは滑稽だ。アリナミンのゴーカートに乗っている彼は勝者の顔だが、プレイしている彼は完全に敗者の姿だ。田中選手はミスしたときもうつむいては歩かない。けっして八つ当たりしないし、いつも足早で躍動感がある。

 15年あまり前の地元のゴルフ場でのこと。ぼくは彼を覚えている。まだプロになっていないときだった。そのゴルフ場で「三菱ギャラン・トーナメント」が開催されたころだった。

 「フックラインでいいのかな?」

 「はい、かなり切れます。とても速いですから、ソフトタッチで行かないとグリーンをこぼれてしまいますよ」

 すごい高速グリーンだった。なでるだけで10メートルほど転がって、どうにかカラーに止まった。

 「きみ、アルバイト?」

 「いえ、研修生です」

 「プロテスト受けるのかい?」

 「はい、そのつもりです」

 そして、その数ヵ月後、彼はそのゴルフ場からいなくなった。ぼくらの誰一人として、彼がプロゴルファーになっていたとは知らなかった。秀道という名前すら知らなかったのだ。それから田中秀道はめきめき頭角を現していくのだが、ぼくが再び彼を目の前で見たのは、3年後の11月初旬、国内賞金総額NO1のラーク・カップでの涙の初優勝のときだった。

 体力と気力勝負の決勝ラウンド、夜明けごろ、テレビに彼の勇士は現れる。がんばれ田中、ファイト リトル・タナカ!