詩画集
 毎週金曜日、11時半の予約で歯の治療を受けている。先月に痛くなって以来、四週間目だと思う。すでに痛みはなく、根治治療を受けている。これまではほとんど待ち時間がなかったのだが、今日はかなり混んでいて待たされた。

 そのおかげで一冊の本を読むことができた。心地よい床暖房の待合室にはささやかな本棚がある。先輩の歯科医が亡くなって、新たに選んだこの歯科医院は、意外に快適な場所となっている。それは若いドクターの人柄でもあるが、素足に温かい床暖房とほどよく揃えられた書物にある。

 ほとんど待ち時間を忘れて、僕は星野富弘作『風の旅 (立風書房)』を読んでいた。いや、読んでいたというよりは、目と心を安らげていた。彼の第二作にあたる、この花の詩画集はとても心温まるものだった。作者は任についた体育教師としてのわずか二ヶ月に、クラブ活動の指導中頸髄を損傷し、手足の自由を失なった。だが、九年間の闘病生活の間に、生きる希望を、筆をくわえて文や絵を書き始めていた。

 読み終えたあと、末尾のページを見てみると、それは1981年の版だった。僕は二十年間彼を知らなかった。いくら書物を読んでいるようであっても、いくら音楽を聴いているようであっても、実際は知らないエアーポケットのようなもののほうが多いことを教えられた気分だった。

 美しい花の画、透明な素朴な胸をうつ言葉たち。僕がそう感じたのは、彼が重度の障害を負っているからではない。初め、僕は詩画集ばかりを見ていた。彼は乙武君ほど頭脳明晰ではない。僕は思う、星野富弘はとっても心の澄んだ、稀有な芸術家なのだろうと。そして、僕は処女作を読んでみようと、タイトル『愛、深き淵より(立風書房)』を携帯にメモった。