ともちゃん
 青春小説風にいうなら我らが世代のアイドルだった。美人三人姉妹の次女で、三人の中でもひときわ輝いていた。自分はその気でも、向こうは一瞥もくれないと勝手に思い込んでいた悲観的な野郎たちがどれほどいたことだろう。

 そんな時代からずいぶんと年月が過ぎた。ともちゃんは一年上の先輩と相思相愛の仲となり、われらが知らぬ間に添い遂げたのはいつのことだったろう。ともちゃんのハートを射止めた伴侶は、高校の先輩であるだけでなく、京都大学医学博士であり、それから町の名医となっていった。ともちゃんは名実ともに良き伴侶に恵まれ、自分と同じように三人の娘をもうけた。お父さんも開業医だった。

 ともちゃんが生んだ三人姉妹は二つずつ年齢が離れていて、その間に僕の長男と長女がいる。ピアノの発表会で連弾をしたり、競い合ったりしたのがついこの間のことのようだ。僕にはこんな話は全部かみさんからの伝聞である。あのころ、僕は仕事にかまけていて、全然父親たる役割を果たしていなかった。僕の脳裏にある子供たちの映像と音は、ともちゃんの良き伴侶がビデオ撮影してくれたものなのだ。

 そのともちゃんの素晴らしいパートナーが今朝亡くなった。三年間の闘病生活の末だった。手術、入退院の繰り返し、その間も子供たちが世話になっていた。危ないらしいという噂話に尾ひれがつき、彼は生きている間も殺されているようだったが、ついに若かりし天命を全うした。

 あしたお葬式だ。ここ数年のともちゃんの健気な姿を見てきただけに、僕はともちゃんの顔を見るのが辛い。弔問してどんな言葉がかけられるというんだろう。ともちゃんは五年前に実父を亡くしている。悲しみを分かちあえるすべは、すでに僕たちには残っていない。ともちゃんの人生の途中に、悲しみはないはずだった。