葬送
 われらが青春のアイドルだったともちゃんはやつれにやつれて、今にも倒れてしまいそうだった。故人の遺志により葬儀はごく簡素に行なわれ、しめやかに遂行された。香典、供物、供花の類は一切辞退されており、ともちゃんの良き伴侶の旅立ちの準備のほどが、僕の胸を打った。死することを予期して生き、死なんがために必死だった。あとに残る家族のことを思い、苦しみながらできる限りの手を尽くしたのだった。

 だが,残された家族の悲しみは長く消えない。葬儀の最後の弔問客への挨拶は、喪主であるともちゃんではなく、長女の由紀子ちゃんがした。ともちゃんと三人姉妹が並び、由紀子ちゃんがマイクを持った。妹二人は泣きながらともちゃんを支えていた。由紀子ちゃんは泣いて泣いて声が出なかった。それを聞いている僕たちは涙がとめどなく流れて、さらにすすり泣く女性たちの声が、お葬式とはこんなにも悲しいものだったのかと、心のなかをつんざいた。

 「私たちは学業のためとても遠くに暮らしています。ひとりぼっちになったおかあさんが可哀想でたまりません」

 僕はこの言葉だけしか覚えていない。由紀子ちゃんは来春卒業で、ゆくゆくはお父さんとともに仕事をするつもりだった。両親がどれほどその日を楽しみにしていたことだろう。由紀子ちゃんは来春からインターンとなり、父の遺志を受け継いでいくことになる。その日が来るまで、ともちゃんが健康でいてくれることを切に願う。そして、いつかかならず僕は、由紀子ちゃんの診察を受けるのだ。