監獄ロック
 ぼくの読書スタイルにポリシーがないことはみなさんご承知のとおりである。19世紀の世界文学にのめりこむかと思えば、フランス書院の官能シリーズへも突入する。

 で、今読んでいる本はというと、ちょいと くだけて浅田次郎の「プリズンホテル」シリーズ。その1の夏が終わって、2の秋を楽しんでいる最中である。

 また季節の順番はちがうが、五木寛之氏の作品に四季奈津子、波留子、布由子、亜紀子と四季シリーズがあるくらいだから、浅田氏にも当然3の冬、4の春があることは言うまでもない。

 前置きが長くなったが、この監獄ホテルの登場人物の多くは想像に難くないヤクザな人たち。ホテルの経営者がヤクザの親分だから、キッタハッタは至極当然。挙句、ただ一人の肉親で跡取の甥っていうのが、極道小説の売れっ子作家ときているから、ガラの悪い小説であることこのうえない。

 が、このローカルで風光明媚な「プリズンホテル」でくりひろげられる、いわくありげな宿泊人たちの笑いと涙のスペシャルストーリーには、ドストエフスキーやフランツ・カフカに優るとも劣らぬかもしれない味わいが漂っている。いや、藤沢周平の人情話にも優るとも劣らぬかもしれない、人の情が醸しだされている。

 で、今日の登場人物は、極道の大親分の情婦だった人気歌手「真野みすず」。親分が逝去して、その供養にと「プリズンホテル」にやってきた。長い年輪に悲しみが刻みこまれ、寄る年波、孤独に打ちひしがれていた。そこでかつてのヒット曲、浅田次郎作「極道エレジー」を愛した人に捧げて歌う。

極道エレジー

さよならも言えないで 別れたあの夜
今も夢に見る 雨の路地裏

ヤクザの女だから 涙は噛んでも
数える月日は 重くせつない

つばめ つばめ あの人の
淋しい軒端に歌っておくれ

海山へだてても いくとせ過ぎても
あたしはあんたを 待ってると

しぐれ しぐれ あの人の
淋しい窓辺に 伝えておくれ

鏡をとざして 油にまみれて
あたしは素顔で 待ってると

 
 と、すぐインスピレーションがひらめいて、別なことを考えるのがぼくの悪いくせ。そこで出てきたのが、かのエルビス・プレスリーの「監獄ロック」。本をいったん閉じて、レコードを聴かなきゃあおさまらない。プレスリーきちがいだった、今は亡き伯父さんにもらったコレクションを捜しはじめる。物置のなかを一時間捜して見つけたやつ、これはやっぱり最高のロックン・ロールだった。

 これはアメリカ中が子供だった時代の歌だ。あるいは子供の真面目さに出会える歌だ。みんなが身体いっぱいひねって、心をしぼった時代の歌だ。身体と心からは虹色の汗が飛び散った。レッツ・ゴー「監獄ロック」

監獄ロック
http://www.xs4all.nl/~mouwen/elvis/midi/jailrock.mid

州立刑務所で看守がパーティーを開き
監獄バンドがさっそく演奏を始めた
バンドはノリノリ、雰囲気も最高潮
囚入たちの大合唱が最高にイカしてる

踊ろうぜ、みんな踊ろうぜ
刑務所中のやつらが
監獄ロックに合わせて踊りだす

蜘蛛のマーフィーがサックスでテノールを吹けば
リトル・ジョーイがトロンボーンで対抗さ
イリノイ州出身のドラマーはドラムを叩きまくってた
バンドの連中ときたらみんな過激なやつばかり

囚人47号が3号にこう言った
「この中じゃおまえさんが一番いい男
どうだい、1曲やらないか
俺と監獄ロックを踊ろうぜ」

隅っこじゃ、サッド'サックが石の上に座り
一人でメソメソしてたっけ
看守が言ったよ「ウジウジするな
相手がいなけりゃイスとでも踊るんだ!」

シフティ・ヘンリーがバッグスにつぶやいた
「今こそ脱獄のいいチャンス」
でもバッグスはすかさずこう言った
「それよりここで楽しもうぜ」

監獄ロックに合わせて踊りだす♪

 「脱走するより、ここが一番いい」、逃げない自由。I'm O.K。You are O.K。いまでは看守さえ、リズムに手拍子している。背中の向こうの顔もきっと楽しそう。そんな気がしてくるエルビスのリズムだ。バカバカしさにある真理。ロックの攻撃。どこにも自由はある。逃げることを考えて苦慮するくらいなら、楽しんでしまう自由。どこにも自由はある。「監獄ロック」が獲得した永遠の勝利の理由は、とても人間的な歌ということにある。

 ということで、みなさん「監獄ロック」を聴きながら「プリズンホテル」を読もう。もしくは「プリズンホテル」を読みながら「監獄ロック」を聴きましょう。