遺伝
 娘は陸上競技が嫌いだ。兄が短距離走が速いのに、自分が同じように速く走れないからだ。娘は苦手なところがあると、私に似ているせいだという。

 たしかに妻は短距離選手だったから、あまり速く走れないのは、私のせいなのかもしれない。娘は容貌が私に似ているらしく、よくおとうさんそっくりねと、私を知る人に言われるようである。

 子供は両親の遺伝子を受け継いで生まれてくる。その受け継ぎ方は、女子が父親、男子が母親というクロス遺伝、同性であれば祖父母からの隔世遺伝のいずれかが多いらしい。

 そう考えると、長男は両親に似ず、堅苦しいほど几帳面なので、私の父と似たところがある。娘は自他ともに認める天然ボケなので、妻および妻の母の特性を受け継いでいる。我が家の女性は、三代続いた天然ボケであることを妻は自覚している。最も、愛知県の妻の母がそのことを自覚しているかどうかについては、定かではない。

 娘は兄ほどに賢くはない。が、妻は私より賢くもない。まあ似たようなもの、もしくはちょいとだけ私が優っていると自負している。それは賢明だという意味ではなく、頭脳明晰のほどがどうかである。都合の悪いことだけを私のせいにすることを、あまり私は快く思ってはいない。

 娘はどちらに似ていたほうが容姿端麗なのかを、考えようとはしてくれない。娘がぼやくとき、いつも妻は笑って訊いているだけだ。そして、娘に、あなたはおとうさんそっくりね、と念を押す。

 プロ野球の人気選手が、よく美人の女優やアナウンサーと結婚をする。彼らに子供が生まれ、その子供たちが大人になったとき、たいていの男子は父を超えられず、女子は母の美貌を超えられない。クロス遺伝が働いているからだと思う。幸か不幸か知らないけれど、子供たちは両親より、平凡たる人生を送らざるをえなくなってしまう。色に溺れ、二兎を得ようとしても、年とれば一兎も残ってはいない。

 優れた人がより優れた子孫を残したければ、スポーツマンはスポーツウーマン、学者は学者、美男子は美女、というふうに恋の選択肢を決めておくことだろう。もしくは恋愛と結婚は別と割り切って、コンピューターがはじき出した、理想のDNAを持った相手と交渉してみることしかない。オリックスの谷選手と柔道のやわらちゃんみたいに相思相愛になれれば言うことはないのだが・・・・・・・。

 さて、我々のような平凡な二人から発生した子供たち、可能性は極めてうすいが、世に出て名をなすかどうかは神のみぞ知るである。親を見て判断するなかれ!