幻想
古本屋が好きだった。
値段の安さじゃなくて、
雰囲気、匂いが好きだった。
人々の時代、書物の歴史が感じられて
えもいえぬ風情があったものだった。

近くに、一年前にできたBOOK1に
今日初めて行ってみた。
手に触れながら眺めていくうち、
奇妙な感覚に襲われた。
本自体は汚れてはいなかったのだが、
病原菌に触れたかのような気持ち悪さを感じはじめたのだ。

指先が汚染されたかのように、
指を一切使わず、
ハンドルを手のひらで抑えて
運転して帰ってきた。
石鹸で入念に手を洗って、
車のキーをぬれタオルで拭いた。

「いらっしゃいませ、こんにちは」
あの元気なマニュアルどおりの挨拶は、
マックのそれとおんなじだった。
それはまるで中古のハンバーグを売っているかのようだった。