郵便受けと受信トレイ
近ごろめっきり手紙を書かなくなった。
先日ふと思いたって手紙を書こうとした。
けど、万年筆のインクが固まってしまっていて、
スペアインクを入れ替えてもインクは流れなかった。
だから未だに手紙は書けていない。

インクの匂いのする手紙を受けとらなくなってどれくらいになるのだろう。
机のいちばん下の引出しを開けてその消印を確かめてみた。
いちばん最近のものは平成10年12月3日
母の死去に対しての友人からの弔いの言葉だった。
多くのものには60円切手が貼ってあり、
わずかだが40円切手のものもあった。
消印は読みづらく中身の末尾を読むしかない。
いずれにせよ十数年以上に遡る古いものだと思う。

最近郵便受けに投げ込まれるものは、
取引明細、請求書、DM、パンフレットなど事務用、広告用がほとんどだ。
切手が貼ってある手紙の類いはほとんどない。
昔、郵便屋さんが来るのを楽しみに待ちわびていたこと
偽りのように懐かしい想い出だ。
ふと先日手紙を書こうと思ったこと、
自分が手紙を出さないのに手紙が来るはずもない。

OEの受信トレイには日々、郵便受けと同じくらいメールが入る。
メルマガやDM、ときには未承認広告なるものが入るときがあるが、
待ちわびている相手、思いもかけぬ相手からのものもある。
メールのよさはタイムラグがないところ、
無機質な文字だが、気持ちを同時に共有できるようなところがある。

でも、思いを込めてしたためた
あのころのインクの匂い、
ポストに入れるときの胸の鼓動、
そんな抒情を期待するべくもない。


井上陽水の「心もよう」をよく弾き語ったものだった。

  心もよう

さみしさの つれづれに手紙を       
したためています あなたに
黒いインクが きれいでしょう!
青い便箋が 悲しいでしょう!

あなたの笑い顔を 不思議な事に
今日は覚えていました
19歳になった お祝いに
作った唄も 忘れたのに

さみしさだけを 手紙につめて
ふるさとに住む あなたに送る
あなたにとって 見飽きた文字が
季節の中で 埋もれてしまう♪