ロングドライブ
いにしえより伝わる恋路ヶ浜の悲恋の物語

ある高貴な男女が都を追われ
この地に移り住んだものの
やがて人々の知るところとなり
男と女は別離を余儀なくさせられた。

女がひとり住んだのが恋路ヶ浜
二人は報われぬ恋に身を焦がし
病床に伏しては死に至り
二人とも貝になってしまったという。


 ロングドライブの果てにはこのような郷愁。さんざめく潮騒が嘘のように静かに感じる空間。岩礁に白く砕ける荒々しい波濤はすぐ近くに見える。日出(ひい)の石門の上にある断崖には、島崎藤村の「名も知らぬ遠き島より流れよる椰子の実一つ・・・・・」の詩としても有名な「椰子の実」の記念碑が建っている。

 時折突風が吹く。砂浜が舞い、コンタクトの眼からは涙がぽろぽろとこぼれ落ちる。岩陰でコンタクトを取り除くと、辺りがぼんやりとして霞の中にいるようになっている。それでも打ち寄せる波の彼方には神島が見える。遠きようで思いのほか近い。三島が名付けた架空の島、歌島、「潮騒」の舞台だ。

 白亜の灯台にあがり、そのロマンスの島を今度ははっきりと眺めてみる。だが、そんなものは波涛の向こうには何も感じられない。ロマンスは自分で創りだすものなのだ。後ろの海岸では、真っ白なかもめの大群が声を出して飛びかっていた。

 もういちど恋路ヶ浜に戻り、裸足になって砂の上を歩いてみる。たくさんの貝殻が落ちている。恋いこがれて死んだ二人は、この浜でいっしょに貝になれたのだろうかと思った。春の海はまだまだ冷たかった。

 遥かな遥かな南の島へひとりで行くときは船の旅がいい・・・・・