日本列島改造論?
 日本の高度成長期に登場してきた政治家、田中角栄、歯に衣着せぬ発言とそのバイタリティ―あふれる行動力は、日本列島改造論の名のもと、日本の経済力を欧米にエコノミック・アニマルと震撼させるほどに誇示させるものとした。

 それは株価と地価の常識を超えた暴騰を招くこととなるが、とりわけ金融機関、不動産、建設業などは身の程をわきまえない過大投資に明け暮れることとなった。いわゆるバブル崩壊は1990年ごろより始まっていくのであるが、実際に身につまされてそのことを国民が感じていくのは、金融破綻が起こり始めた20世紀末からである。

 日本という国は、未だ田中角栄の呪縛から解き放たれていないといっても過言ではない。当の田中氏は、ロッキード疑惑で首相の座を追われ、バブル崩壊以前に故人となっているのだが、十数年を経ても不良債権が増える一方なのは、田中氏の唱えた繁栄という幻に引きずられてきたといってよいだろう。

 日本国の格付けは現在イタリアなみである。日本経済が繁栄を欲しいままにしていたころ、西欧での唯一の落ちこぼれがイタリアだった。イタリア人は怠け者で、勤勉でない象徴のように言われつづけていた。あと1ランク下げられれば、日本は東欧のハンガリーなみになってしまう。それほどに現在の日本は、世界の金融市場での評価が低いのだ。

 世界の金融市場で評価が低いということは、とりもなおさず企業の資金調達に支障が出てくる。経済がグルーバル化すればするほど、有利な資金調達ができない国の経済は、凋落を余儀なくされる。世界に名だたる日本の優良企業でさえも、現在は生き残りに必死である。そういうことで、優良ともよべない企業はいわんやである。

 かつて日本は、経済は一流、政治は二流といわれてきた。現在の日本は、経済は二流、政治は三流になりさがってしまった。

 国会中継で視聴率が上がるのは、スキャンダルがらみのことばかりである。与党改革を旗印に立ち上がって、途中で腰が砕けた自民党元幹事長加藤紘一氏の秘書脱税事件。外務省問題で離党した鈴木宗男氏、やめるとき一挙三両損などとうそぶいたが、次々と疑惑がもちあがってきて自身の進退問題となりつつある。田中真紀子氏と刺しちがえたつもりだろうが、そうは問屋がおろさなかった。

 その鈴木氏の証人喚問を行なった辻元清美氏が、「大嘘つき」と鈴木氏を罵った場面は、視聴者には痛快ではあったろうが、それにはまたしっぺ返しがついていた。当の辻元氏本人が、自分自身のことで大嘘をついてしまったのである。言い訳は子供みたいなもので、その表情には「誰か助けてください」と懇願しているようにも見えたものだ。どうにもしまらないことだらけだ。スポーツ新聞の一面に政治家が載るようになったらもうおしまいである。

 国会議員の年俸は約5000万円、一般庶民から見れば膨大な金額だろうが、事務所維持費や地元においている私設秘書など公費でまかなわれない部分を差し引くと、自分に残るものはさしたる金額にもならないはずである。さらに選挙のつど選挙資金というが必要となる。普通の政治家はまっとうにやっておれば、もうかるどころか日々の生活で精一杯だろう。だから、いろんなところからお金を工面しなくてはならなくなる。それが癒着だとかしがらみになってしまう。しかたなく、やりたくもない不正だってやってしまうのが人情だ。これは日本の政治の根本的な問題だ。例えば年俸を一億円にして議員を半分にしてしまうとか、首相を国民投票で選ぶとか、多くの改革が必要だろう。

 どうして田中真紀子が人気があるんだろう。不思議だと思う。あんなヒステリックなおばさんのどこがいいのだろうと。とりわけ中年女性に人気がある。彼女の言動を好むのは、日頃の鬱憤晴らしを、彼女が代行してくれているように錯覚しているのではないかと思えたりする。

 彼女が好き放題言えるのは、田中角栄の娘だからだともいえる。それは虎の威をかる狐の意味ではない。金銭的に何不自由ないからである。気の強さや歯に衣着せぬ発言は父親譲りだが、そのことは政治家として必要なことである。田中角栄は、私利私欲に走って膨大な富を築き上げた。その恩恵を十二分にこうむって現在の彼女がいる。清廉潔癖でいられるということは、政治の世界において本人の資質によるところが大きい。だが、金銭的に不自由がないということは、ダーティーなことに関わる可能性を最小限にとどめられるということでもある。金は魔物である。魔物の誘惑に負けて身の破滅を招いた人々がどれほどいることか。

 小泉首相の周りを見てみればよい。福田元総理の子息、安部晋太郎氏の子息など親の政治基盤と財産を引き継いだ二世議員がとりまいている。政治家など叩けば埃が出る人のほうが多いと思う。そう考えれば小泉純一郎氏はしたたかである。自らの周辺からはスキャンダルを未然に防ごうとした人事を行なっているとも言える。田中真紀子氏の常軌を逸した発言はよけいだったのだろうが。

 けなげにも見える辻元清美氏、捲土重来を願いたくもあるが、金の魔力に嘘を重ねたとあっては、潔くもとの市民運動にもどったほうが彼女のためになると私は思う。

 鈴木宗男氏及び加藤紘一氏も潔く自らを処すべきだ。彼らが永田町にとどまること自体が陳腐でもある。