さよなら
「もしもし」

「わたしよ、きのう留守電に入れてたんだけどね、それじゃ さよなら」

「えっ?」

僕が言葉を発する前に携帯は切れていた。
僕の携帯に留守電機能はつけていない。
だが、知らない人の着信履歴が残っていた。
さよならは歯切れのいい声だった。
爽やかな意を決したようなふうだった。

別れを言うような相手なら番号登録がしてあって、
かけまちがうはずはないと思うのだが・・・・・。

着信履歴にコールをしてみようかと思った。
「どなたにおかけだったんですか?」
でも、やめた。

知らない人にさよならっていわれるのもまたいいもんだ。
あれはきっと三十代半ばの女性だろう。
あと三回着信が入ってくると、
彼女の番号は消えてしまう。

今のうちに僕のほうからも言っとこう。

さよなら 知らないあなた