なつかしのミュージカル
 NHKのBSハイビジョンで「ウェストサイド物語」を見ていた。このミュージカルがブロードウェイで上演されたのは、1957年のこと。そして、映画化されたのが1961年。だから、ぼくが劇場でこの映画を見たのは当然リバイバル。「ベンハー」然り「風と共に去りぬ」然り。

 ビデオレンタルしたこともなかったから、この映画を見たのは二十年以上前ということになる。が、記憶にそんなに古くない。「トゥナイト」や「マリア」などの触りくらいは今でも歌える。鮮烈な心象を受けた記憶は、いつもどこかで顔を覗かせる。なつかしいよき記憶の一部分だ。

 どんな記憶でも消し去ることはできない。電子メールみたいに、削除を選択すればすべてが藻屑となるように、人間の記憶はできていない。忘れるということは、どこかの奥底へしまいこんで見ないでいるだけだ。永遠に見ないですむならそれでもいいだろう。でも、嫌なこと苦しいこと哀しいことが、不意に表へ現れてくることがある。それは生きている限りどうしようもないことなんだろうと思う。ひとの人生にはいろいろなことが折り重なっている。よいことだけを見て生きていければ幸福なんだろうし、いやなことばかりが先に出るようなら不幸なのだろう。