きみのためにできること
 エンジェルス・エッグでお馴染みになった村山由佳さんの、ジュニア向けのようなこの小説を読んでいて、似たようなシーンを思い出した。それは自分が犯したミスと同じだった。

 主人公の青年には幼なじみで相思相愛の女性がいるのだが、仕事の都合で滅多に会えなくなっている。音声技師のプロになりたいという夢があった。だから、その女性、愛称ピノコとは、もっぱらメールのやりとりでお互いの気持ちを補いあっていた。

 高瀬俊太郎はテレビの仕事で、美貌の女優を知ることとなる。青年は年上の女性の妖しい輝きに心を二分されていく。

 小説の中で情事はない。青年は二人の間で揺れながら、自分の歩むべき道を迷いそうにはなるが、誤まりはしない。

 たったひとつのミスはメールだった。女優に恋を打ち明けるメールを作成し、それを誤まってピノコに送信してしまったのだ。ピノコは傷つき、青年は誤解を解くべく奔走する。自分が愛せ、自分を愛してくれる女性は、ピノコだけなんだと気づくことで。

 そんな過程で俊太郎は、女優の部屋で二人きりになり、求められることとなるが、少しだけ大人になった青年は、妻子ある男性との不倫の愛に傷ついた女性を抱こうとはしない。


 似たようなシーンとは二人の女性に恋したことじゃない。宛名をまちがえて、メールを送信してしまったことだ。それは僕がネットを始めて間もないころだった。僕の失敗を覚えているとある女性が、たぶんこの記を読んで思い出し笑いをすると思う。メールを送った後、しばらくしてまちがいに気づいた僕は、呆然としてしまった。冷や汗がでて,Unknown と返送されてくることばかりを祈った。

 すると、深夜に数時間して返信があった。「宛先を間違えていますよ。これは○○さんへ送るつもりだったのでしょう。こんなの初めてだわ。ああ、おもしろかった。ひさしぶりに笑っちゃった。今度は間違えずにご本人に送ってあげてね」

 僕はとても恥ずかしかった。たぶんこんなのを一世一代の不覚っていうんだろう。でも、誓ってもいい、僕のは高瀬俊太郎のような、情熱的なラブレターじゃなかった。ほんのちょっとだけ、ほんわかな内容のものだったんだ。

 あとで本人に送信し直したかって? いいや、それには答えない。そして、今では送ろうにも、彼女のメールアドレスは残っていない。