暗闇へのワルツ (序章)
ときは1880年,
あのころにも出会い系があった。

といっても現在のような種種雑多な
いかがわしいものではなく,
文通による恋との遭遇だ。
結婚相談所でもある。


セントルイス通信交際会
  (優秀な紳士と淑女のための会)

一人の男性が希望を書いてそこに登録を申し込んだ。
その返信を紹介しよう。

 前略

お問い合わせの件につきまして,さっそくわたしたちの会員の一人の名前と住所をご通知申し上げます。あなたから先方へお手紙くだされば,必ず通信交際の縁が結ばれ,相互に満足いただけるものと確信しております。


主人公,ルイス・デュラントは,
希望に胸膨らませていた22歳のとき,
結婚式の直前にフィアンセを亡くしてしまった。
挙式が突如葬儀と変わり果てたのである。

その後,デュラントは恋を忘却してビジネスに励み,
会社を設立し,成功し、富を築いていった。

しかし、37歳になった彼は,
再び恋というものに憧れを持ちはじめた。

けれども待っていても出会いなどちっとも訪れなかった。
その代わり彼が見つけたものは
セントルイス通信交際会の新聞広告だった。

デュラントは紹介された女性と真面目な文通を続け,
ついに文通による結婚にこぎつけた。
相手は同年齢ほどの普通の女性のはずだった。

デュラントはニューオーリンズの河岸で
彼女が乗っている船を待っていた。
希望にわくわくどきどきして待っていた。

河岸に船が着いたとき,
デュラントは彼女の写真を握り締めていた。
降りてくる一人一人を凝視して待っていた。

しかし,写真の女性は現れなかった。
デュラントが絶望に涙を流しているとき,
後ろから一人の女が声をかけてきた。

それは見るも若々しい絶世の美女だった。
彼女はデュラントに謝っていた。
もし、自分の写真を送ってしまうと
自分の人柄なんか見ずに,結婚を即断されてしまうと。
自分は何度も何度も文通を続けて
理解しあえる結婚相手を見つけたいと思っていたと告白するのだった。
そして、それがデュラントだったのだと。
彼女は叔母の写真を送ったことを泣いて詫びた。

デュラントの歓びは絶頂に達した。
新築の家も何もかもが彼を祝福していた。

結婚式で一つだけミスがおこった。
金の結婚指輪が薬指を通らなかったのだ。
彼女が手紙でサイズを間違って書いたのか
指輪屋がサイズをまちがったのかはわからなかった。
彼女はそっと指を舐め,湿らせて何とか通した。

彼の結婚生活は幸福だった。
人もうらやむ若き絶世の美女,
彼は忘れていた幸福に酔いしれ,
彼女が連れてきたカナリアがなぜ死んだのかを考えなかった。

デュラントがついに現金と小切手の両方を二人の名義にした。
その翌日、ジュリアの姉から手紙が彼の会社に届いた。
妹から何の連絡も入っていないと。どうなっているのかと。

あわてて家に帰ると,妻ジュリアはいなくなっていた。
港から彼女が持ってきた旅行カバンは鍵がかかったままだった。
鍵をこじあけると,中のドレスは妻ジュリアのものと全くサイズが違っていた。

急いで馬車を拾い,銀行の支店長の家を訪ねて、
出納係に口座の残高を調べさせると,
閉店前ぎりぎりの午後三時五分前にジュリアがやってきていて,
デュラントの預金は60ドル残されているだけだった。

本物のジュリアと偽物のジュリア,
二人はどこかで入れ代わっていたのだ。
本物は知らぬ女によけいな話をしたばかりに
ミシシッピ―川に沈められていたのかも知れなかった。

やっぱり出会い系はいつの時代でも恐ろしい。
さあ,続きを読もう。

PS みなさんくれぐれも美男美女にはご用心