企業公害
人災ならぬ企業災害は,
数々の歴史をもっている。

代表的なものにチッソによる水俣病災害,
森永乳業による砒素ミルク中毒,
ミドリ十字薬品による薬害エイズ事件がある。

チッソが水俣湾に流しつづけた有害物質(メチル水銀)について、
水俣湾の魚を食べる住民の多くに奇病が発生し,
その原因はチッソの廃棄物にあると指摘されはじめてからも
行政指導を受けるまでやめられることはなかった。
企業と国を相手取って長年続けられた水俣病訴訟は、
環境公害訴訟の先駆けである。
あまりに痛ましい災害で,
多くの人々が治癒することのない奇病に苦しみながら死んでいった。
発病者およそ17000名,死者1408名,
いまだに難病に苦しむ人の数は計り知れない。

森永砒素ミルク中毒については,
昭和30年、西日本を中心とした地域で原因不明の奇病が発生した。
罹患していた乳幼児のすべてが森永のミルクを飲んでいることが判明し,
岡山大学医学部の調べで砒素が混入していることが発見された。
翌56年,厚生省は被害児の数を12131名と発表した。
そのときすでに130人の乳幼児の命が失われていた。
そして,厚生省の後手後手の対応によりさらに多くの子供たちの命が奪われていった。

その後、厚生省は一斉検診と治癒判定基準に基づく判定を指示、この結果被害者のほとんどが「全快」の判定を受け、「後遺症の心配は無い」「原病の継続である」との判断がくだされた。
検診に当った医師の中には経過観察の必要性を強調した者も少なくなかったが、その体制はとられず、69年の丸山報告に至るまで被害児は医療から見放され、追跡検診を受ける事はなかった。この14年間に適切な治療、手当てがされてたら、或いは人並みに生きていけたかもしれない。その罪は計りしれない。

森永乳業の不十分な対応に対して,
18年間に及ぶ訴訟,裁判が継続され
怒りの消費者からは森永不買運動が起こった。
このとき,弁護団を率いていたのが中坊公平氏である。

薬害エイズ事件についてはみなさんご存知の通りである。
人間の生命よりも企業の利益を優先させた
なんとも痛ましく許し難い人災である。


ところで昨年から上記ほどにはひどい災害ではないが,
雪印グループが昨年に続いてまた世間を騒がせている。
消費期限をすぎた牛乳を再加工して,
インチキ販売して食中毒を起こし、
スノーブランドが長年積み重ねてきた信用を失墜させ、
雪印乳業は創業以来の赤字転落となった。
チーズやバターなど雪印商品にファンは多かったのだが,
理解に苦しみ失態であった。
経営陣に驕りがあったとしか考えられない。
それでもなんとか国民に頭を下げまくって、
小売店には従来よりもずいぶんと安い原価で提供し,
どうにか元どおりに商品が店頭に並ぶようになっていた矢先のことである。

今度は子会社の雪印食品が業績不振をどうにかしようと,
国の和牛優遇処置を利用して,
オーストラリア産の牛肉を国内産と偽って業界団体に買い取らせていた。
これは食中毒は起こらないから人体に影響はないものの,
苦しんでいる国内の畜産業者に追い討ちをかけるものであり,
まあ,よくもやったりの悪質な詐欺事件である。

こうなってくると,雪印グループの企業理念は
まやかし同然であり,
再び失墜した信用を取り戻すことは至難の業だといわねばならない。
失墜した信用は,消費者のみでなく,金融機関にまで及び,
早晩資金ショートをきたす恐れがある。
それでさえ,昨年の事件で業績は悪化しているのである。
万が一会社再生法の適用となればまたまた社員が路頭に迷うだろうし,
取引先や畜産農家は甚だ迷惑をこうむるだろう。
大手企業が潰れれば連鎖倒産は必ずおこる。

だから,敢えて言いたいことを言わずにおこうと思う。
「雪印不買運動を推進しよう。
消費者を、国民を馬鹿にした雪印ブランドを追放しよう」 などとは言わない。
みなさん知らんぷりしてあげてください。
今回は刑事事件なんです。
判決は代表取締役並びに役員、及び現場責任者に西宮冷凍庫禁固刑,
期間は程よく凍りつくまででいかがでしょう。
むろん罰金刑はもちろんのことであります。

皮肉なことに、かの森永乳業の株価が上昇し,
雪印乳業の株価は上場来安値を更新するばかりである。
雪印グループの存続は結果的には消費者が決めることになるだろう。