青列車殺人事件
「あれは嫌な青列車よ。列車って無情なものね。人が殺されて死んでも、平気な顔をして走っていくんですもの。私馬鹿なこといってるけれど、ポアロさんは私のいう意味わかってくださるわね」

「よくわかりますとも、お嬢様。人生は列車みたいなものでございますよ。どんどん走って行きます。それでよろしいのでございます」

「なぜなの?」

「なぜかと申しますと、やがて旅の終わりになるからでございます。それについて諺があるではございませんか、お嬢様」

「旅が終わるところで恋人が出会う」といって、レノックス嬢は笑い声をあげた。「でも、私の場合にはそんなの、ほんとうでないわ」

「ほんとうでございますとも。あなたはお若い。ご自分で考えておいでになるよりずっとお若くていらっしゃる。お嬢様、列車を信用なさいませ。なぜなら、それを運転しておいでになるのは全能の神様でいらっしゃるからでございます」

汽笛の音がふたたび響いてきた。

「列車を信用なさいまし、そしてエルキュール・ポアロを信用なさいまし。ポアロは何でも知っております」 とポアロはくり返してつぶやいた。

        「了」