N Junior Chamber 40th Anniversary
 贈る言葉

 振り返れば、日本の高度成長期から成熟期への変遷の時代に、高校、大学と青春を過ごし、その後、自分の目の前に敷かれたレールの上をただ歩んできたように思います。就職をし、結婚をして家庭をもち、自分の人生をそれなりに真面目に生きてきたように思えるのです。それは、私にとって、今となっては、変えることのできない道程でした。

 JCに入会したのはちょうど三十歳のときでした。JCというものの意味もわからぬまま入会を勧められ、否応なくそこに存在しつづけたというのは、相変わらずレールの上を歩いていたからかもしれません。1980年代は日本が自国の経済力を過信し、驕り昂ぶりに狂乱していた時代でした。そのいわゆるバブル期にJCライフを送ったのですから、また私たちもシャボン玉のような夢を描きつづけていたともいえるのです。

 本来のJCの意義とはちがっていたのかもしれませんが、JCには俗世間とは一線を画した遊びのような部分があることを感じたときがありました。それは社会での利害関係が関知しないところで、あるひとつのことに熱中するということでした。嫌なことはうっちゃって、限りなく好きなことに夢中になるということができました。それはまるで青春の残り香のようでもありました。

 1991年の創立30周年は、新世紀へのカウントダウンが始まった年でした。記念事業として、21世紀(あす)へのときめきを求めた私たちの思惑は功を奏したかにありました。記念事業の「21世紀夢物語」の絵本作成が、翌年、日本JCから褒章を受賞し、函館の会場で戸田理事長らと万歳をしたときのことは忘れられぬ思い出です。しかし、絵本の中で子供たちの夢が残りつづけても、あのときに束の間だと思っていたバブル崩壊は、新世紀になった現在でも深くその傷痕を残していて、人々から夢や希望をもぎ取っています。それが癒されるときはまだまだ先のことで、多くの国民が不安を抱えて生きているのです。あの当時、私たちは、未来を見つめることに実にうかつだったのです。

 JCに卒業というものがあることは幸いだと思います。老兵が語ることをやめ、若い人たちがその時代にそった考えで行動できるからです。過去を回想して「今の若い者は」と批判するのと同じように、現役が「あの時はこうだったから」と躊躇するほど愚かで、未来を無視したことはありません。時の流れは速さを増すばかりです。時代を先取ることを忘れず、よく学び、よく行動して、よく遊んで欲しいと思っています。