2003年10月の記事


「アルバム」
どの写真を見ても
わたしは同じ服を着ている
いつでもそれは
記念写真だったから
お気に入りの
お出かけ着を着てすましてる

いつでも
父は写っていない
弟とふたりだけの写真
母が、父の隣で笑っている
覚えているのは
そんな情景

アルバムには残っていない思い出
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「タイムリミット」
結果を出せずに終る
物置に放り込まれた
プロジェクト

いつのまにか
埃まみれになった人生も
磨けばすこしは光るかも

タイムリミットは
明日
いつまでも 明日が
タイムリミット
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「秋雨」
なかなか終らない
恋の行方に
青色吐息
じれったくなるわたしを
楽しんでいるあなたが見える

秋雨は
頭を冷やせと言わんばかりに
リズムはシンコペーション
雨量はメトロノーム

雨足はゆっくり
あなたへ近づいているのに
傘は届かない
あなたに差しかける傘は
誰の手なの
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「トランスミッション」
変速ギアを高速チェンジして
季節が変わる

少女たちのけだるげな歩速は
足早になり
ショウウィンドウのマネキンたちは
紳士淑女になる

営業帰りの男たちの笑顔は引きつり
立ち話の主婦は、時間を捕捉し始める

季節はときおり
いたずらっぽくシフトを変えて
呆れ顔の人々を笑う
寒暖の行き来も季節のトランスミッション
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「街角」
雑踏の中を急ぎ足で歩く
自分の存在をかき消すように
見知らぬ人々を
確めるように辺りを見回し
もう一度
人ごみの中に紛れていく

聞き覚えのある音楽と
見たことのあるポスターと
見慣れたシチュエーションと
嗅ぎなれた匂いと
身に覚えのある日常と

全てが混沌の中に呑まれていく
逃げ出す事が良策なのか
とどまる事が好運なのか
答えを探し出す気力もなく
街角を散策する
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「彼女」
なんの気負いもなく
極自然に
彼女の手はあいつにからみつく
嫉妬を感じる暇もなく
彼女は笑いながら
話し掛けてくる

極自然にあいつが
彼女を抱いた話をしたとろで
あたり前すぎて
嫉妬する事すら忘れて
とりあえず
あいつとわたしの関係は
いったいなんだったんだろうと
疑問に思いつつ
惰性で繋がったままでいる

彼女は、そんなことは
気にもせずに
彼女のままで 笑っているだけなんだ
そう 彼女は女神で
邪神で くったくのない妖女
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「新生」
生なるを感謝す
歩みとどめ
大海の一滴を見
風の一埃を感じ

我が一歩を踏み出さん
我れ ここにあり
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「駅前」
街灯に照らされる
緑の人造色
降りる人乗る人の
喜怒哀楽も人工色に
とり替えて
月夜は素通り
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「曙光」
闇をにじませて蒼
雲を掃き清めて朱

一瞬の光波
砕け散る粒子

静寂の奏でる
プロローグはさえずり
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「考え事をしているぼく」
ぼくの目の前には
手足が細すぎて
自分で立つ事すら
できないんじゃないかと
思えるような
少女がいるんだ

そんな心配をよそに
彼女は歩けるし
聞き取れないほどの
小さな声でわがままさえ言う

でも、彼女は
三日間、食べず飲まず
無理やり食べさせても
吐き出してしまう

生きようとしていない

ぼくが彼女に伝えたいことは
「生きていてくれ」という言葉だったが
彼女には無意味な言葉

彼女がほしかったのは
「愛している」という言葉

何度も何度も
同じシーンを頭の中で繰り返して
ぼくは考えているんだが
彼女はぼくを
愛してくれていたのだろうか

――――――――――――― 夏に5日間一緒に過ごした脳性マヒの少女に捧ぐ
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「体育大会」
風が掃き集めた雲を
捨てて青空

子らの笑顔
日に映えて秋
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