「農夫の死」
末期のベッドの上で
笑いながら死んでいった
農夫がいた

排泄もままならぬのに
毎日が
「絶好調!」と答え
「どちらの耳が聞こえないんでしたっけ」
という医者の質問に
「両方」と、とぼけてみせ
末期の症状の苦しみから逃れるために
打たれた注射の眠りから、目覚め
「わ、夢見だじゃ。
孫の車さ、のへでもらって、
ロサンゼルスさ 行ってきたおん」
うれしそうに語っていた、と

戦地へ出兵したことのある彼から
ただの一度も、
戦争の悲惨さを聞いたことはなかった。
彼は、大地を耕し、りんごの木と生活し、
死ぬ直前まで農夫だった