生活省幸福局への申し込み
2050年春
その幸福受付所の窓口にはたいへんな人の列が
続いていた  
ほとんど公表されていない期間内のしかも最終日で もう殺気だった状況であった
朝から来てどれだけ並んだろうか
時折ふしぎな光景を見る以外はなんのへんてつもない単なる順番待ちであった
時折おこる窓口の停滞は ある一団の人達が高級車で乗りつけた時に起こる
役所の人が一斉に立ち上がりぎょうぎょうしく頭を下げる
かれらがそこを離れるとまた無愛想な調子で対応しはじめる
もう夕刻を過ぎようとしていた
突然 列のうしろの方でおおきな哀願する声が響きわたった
もう今から並んでも受け付けできないと宣告されたのだろう
きっと遠方からはるばる出てきたとか
なんらかの事情で遅れてきたのであろう
かわいそうだがなんともし難い
朝から来ていたわたしでさえヒヤッとさせられた
だいぶ並んでから 申し込み用紙のこと 印紙のことなどがわかってきた
その都度 ちがう窓口に並びかわった
もう足は棒のようになっている
またこの建物にはやすむところがなかった
幸福になれるのならこれくらいのこと
そう自分にいいきかせてじっと我慢した

ようやく自分の番がまわってきた
幸福券 おとな2枚 こども3枚 年寄り2枚
お願いします

ここでお渡しできるのは本人さんの分1枚だけです

えっ.....
顔面より血がひいていく

でも たしか先ほどの方は.....

あのひとは委任状をお持ちでした
あなたもお持ちですか

いいえ.....

じゃだめですね

わたしの分だけですか

A君 さきほど見えられたO様の券10枚追加しておいてくれ お知り合いの方の分だそうだ

はい わかりました 用意します

あのう 委任状はいつまでにお持ちすれば....

今 なかったら無理ですよ
じゃあなたの分1枚 さあ どうぞ

す..... すみません 結構です

わたしは茫然としながら窓口をあとにした
おとうさんは体調をくずしているのに無理して
仕事に行っている
こどもは家計を助ける為に 毎晩おそくまで
内職の手伝いをしている
年寄りふたりは若い頃の無理がたたって身のまわりの世話が必要になっているが 
パートの仕事で充分なことがしてあげられない
そのパート先で偶然幸福券の配布の話を知ったのだ  家族みんな期待して待っている
少しでもいいから今より楽をさせてあげたい
そう心から願ってやってきたのに
今のわたしにとって 1枚だけの幸福券など
なんの未練もない
なみだがこみあげてきたけれど
わたしは胸を張って家族のもとへ帰れると自分に言い聞かせた

後日 幸福券に絡む汚職事件が発覚し券の効力は失われた