ある公園の風景
ぼくは公園のすみっこでコンクリート壁に
向かってボールを投げていた
毎日ひとりで投げている
直球の他にカーブも練習している
自分なりにだいぶ上達してきたようであるが
ひとりでやっているので 本当に球が速いのか
球にキレがあるのか分からない
相手は壁である
いまのはすごかったねとか
もうちょい右がストライクゾーンだよとか
そういった反応がない
結局 自分で自分を採点することになる
もうちょっとだ
まだまだ自分の本当の力を出してないぞ
いまのはなんだ これが毎日練習した結果なのか  自分はこのごろなまけているぞ
こんな風だから 自分の球を受けてくれる
キャッチャーが現れないんだ
というように 自分のことをしまいには責めてしまう

ときどき公園の反対側で おなじ年頃の少年が
やはりひとりでボールを投げていることがある
ああまた来ているな
彼もピッチャーをめざしてがんばっているんだな 残念だな キャッチャーならぼくと
練習できたのに
話し相手にもなれたのに
ある日その少年が声をかけてきたことがある
いっしょにやらない
やぁ こんにちは 
ときどき 投げに来ているよね
でも 君もピッチャーなんだね
ぼくと同じなんだ
残念だけど いっしょにできないよね
少年は首をかしげ 苦笑しながら向こうへ
歩いていった

ぼくはもう一度 応じなかった理由を
自分に確かめる必要があると思い始めていた