ホットレモンの香り
そういうことか とダックスフンドは思った
野原から森林に向かって行くうさぎを
余裕をもって追いかけていた時
ふと気がついた
倒れた大木の下をくぐりながら
必死で逃げるうさぎ
人間は楽しみながら 
さぁつかまえろと勢いづく
ダックスフンドは猟犬だ
猟犬としてのつとめは分かっている
だが 生き物としてのプライドもある
無意味に 何の理由もなく
自分の本能とか 持ち合せている能力を
使ってよいのだろうか
ダックスフンドは次の瞬間
うさぎの逃げていく方向とそれた
目標もなく駆けつづけた
先程までよりも元気に声をはりあげて
たぶん あのうさぎは今ごろどこかの穴に
隠れて震えているのだろう 何も知らず

うしろの方で人間の奇声があがった
こんなところに隠れていたぞ!
みんなで取り囲め!
ダックスフンドは青ざめた
ダックスフンドはくるりとひるがえり
今度は人間たちに向かって突進した
おれが行くまでつかまるんじゃないぞ!!