ある日の旅立ち
ある日のバス停

「先に行って」

私は わざとゆっくり 傘をたたみはじめる
友達は学校へと歩きはじめる
バスは発車する
反対方面ゆきの長距離バスが入れ替わりに
ターミナルに入ってくる
そのとき私は すでに上着を紙袋に仕舞いこんでいた
サングラスをかけバスに乗り込む
もうあとには戻れない
旅の成功は一気にその場から遠ざかることだった
どんどん過去がうしろに残されていく
どんどん新しい未知の世界が飛び込んでくる
無抵抗にそのうつりかわる現実を受け入れる
無謀だけをよりどころにして
すすむ すすむ 
もう かえれない
不安や 後悔が 弱々しく呼び止めにやってくる
でも 若さがそれをなんなく断ち切る
圧倒的 完璧なまでの勝利
いとも 簡単に日常は切り捨てられる
誰も 今の自分の居場所など知らない
たいへんな騒ぎになるのはもっと後のことだ
家族のうろたえる様子 
そこまでは考えない
問題はこうして得られる自分の自由な時間と
自由な空間を 
どのように色づけできるかであるが
ほとんどの場合 資金の枯渇と共に
終焉へとむかっていく
ほんとうの旅は むしろそこから始まる
無謀の旗を静かにひきおろし
旗を破られないように
おとなしく一旦終わりを受け入れることが大事である
そのことで心配をかけたことに関しては
素直に反省をし弁解はしない
されど されど こういう行動を
おこさせた遠因は おとな達に
考えさせればよい
つきつければよい
旅立ちの目的はそれによって達成できる
いま思い出すとぞっとする
いくつもの偶然により
無事ことが済んでいる