振向茶屋 �V
少年がとぼとぼと戻ってきた
よう!お帰り
少年はうつむいたまま言葉もなかった
どうした 元気ないな 何かあったか
なんにもなかった
そりゃ一安心
なんにもなかったんだよ それがうれしいの
ああそういうことか 求めておったものがみつからなかったんじゃな
みつからなかったんじゃなく
なんにもないんだよ そんなもの
ほほう そりゃ残念だったな あんなにはりきっておったのにな
笑ってもいいよ おじさん
なにをいうか わしもなんか悲しいわ
とりあえず まあいっぷくしろ
ほれ あったかいぞ
おいしかったよ あの竹筒のお茶
そうかそうか いきしなに渡したあのお茶を
飲んでくれたか
おいしいなここのお茶
おじさんもな さっきまで旅をしとったんじゃ
へぇ ずっとここにいたんじゃないの
そんなことしておっては飯も喰えん
おじさんは仙人みたいにずっとこうしていても生きていけるんじゃないの
わはは 夢みたいなこといいよって
にんげんは皆それなりの事情をもって暮らしとる
ここへやってきては人生の海原をみつめて
いっぷくしとるんじゃ
するとな 何処へいってもみえなかったものがだんだんみえてくることもある
ぼくもまた来ていいですか
もちろんじゃとも ここではだれもが遠慮なくいっぷくできる あわてずゆっくりやってくれば いつでもここはみつけられる
木陰を通り抜けてきたすがすがしい風が 茶屋のふたりをつつんで 目の前の景色をくっきりとさせた